第47話


『ご覧ください!これが東京第二ダンジョン、四十階層のボス部屋です。そして今から、日本が誇る攻略組クラン、紅の騎士団、のメンバー五人がボス攻略戦へと挑みます!』


ダンジョンの薄暗い通路の中、リポーターがカメラの前でそんな実況をする。


画面の中では今まさに、五人の探索者がボス部屋へと足を踏み入れようとしていた。


「ドキドキするね…お兄ちゃん」


「そうだな」


テレビの前のボロボロのソファに座って、俺と美久は攻略組の様子を見守る。


『とうとうボス部屋の中へと入りました…今のところボスの姿は見受けられません…どこかに隠れているのでしょうか?』


攻略組とテレビ局スタッフ一同がボス部屋へと足を踏み入れた。


ボス部屋の中は薄暗く、何も見えない。


「油断するな。いつどこからボスが現れるかわからない。武器を構えろ。陣形を成せ」


リーダーっぽい探索者が、仲間たちに指示を出して戦闘態勢になる。


スタッフたちは少し離れたところから、緊張した面持ちで様子を見守っている。


「ん?なんだあれは…?」


不意に攻略組のメンバーの1人が空中を指さした。


カメラがズームインする。


映し出されたのは、宙空に浮いた大きな鎌だった。


「ボスの武器か…?どうして浮いているんだ?」


メンバーたちが警戒する中、俺は五十階層のボスを理解してしまった。


「なるほど…ボスはレイスか…」


レイス。


実態のない、いわゆる霊モンスターの頂点に位置すると言われている種類。


物理攻撃や攻撃魔法が効かない、かなり強力なモンスターだ。


力技は通用しないわけだが、攻略組はどう対処するのだろうか。


「れい…お兄ちゃん、なんて?」


「いや、別に。なんでもないぞ」


うっかりつぶやいたモンスター名を聞かれそうになり、俺は慌てて誤魔化した。


危ない危ない。


知っているモンスターだったので、つい口に出してしまった。


「おいおい!!みろ!!鎌が動いでいるぞ!!」


「気をつけろ!!こっちに向かってきている!!」


攻略組の探索者たちが1人でにゆらゆらと揺れ動いている鎌に驚いている。


そうか…彼らにはレイスが見えていないのか。


俺も一度カメラを通した映像だと見えないが、直接相対すれば、魔眼の力を発動してその実体を見ることが出来るだろう。


と、そうこうしているうちに戦闘が始まった。


ギィンという金属音が鳴り、火花が飛び散る。


リーダー格の剣とレイスの鎌がギリギリと空中で拮抗していた。


「ど、どうするリーダー!?」


「この鎌がボスモンスターなの…?」


戸惑うメンバーたちにリーダーが指示を出す。


「違う!!おそらく鎌を持っているボスモンスターがいるんだ!!透過の能力か何かを使っているんだろう!!実体がどこかにあるはずだ!総員攻撃開始!!」


リーダーの命令で、残りの4人がスキルを使った。


彼らのスキルがなんなのかは、映像越しではわからなかったが、映像がとらえたのは、浮いている鎌めがけて石飛礫のようなものが飛んでいく瞬間だった。


「む?」


「外した…?」


「おかしいぞ…?」


「この距離でか…?」


4人が戸惑った声を出す。


おそらく彼らのスキルは全て空を切ったのだろう。


宙に浮いた鎌は、リーダーへと攻撃を続ける。


「くっ…一撃一撃が重い…早く仕留めてくれ!!あまり長くは持たない!!」


攻撃を引き受けているリーダーが悲鳴のような声をあげる。


彼らはまだ、相手が物理攻撃の効かないモンスターであることに気づく素振りもない。


これは長引きそうだと俺は思った。


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