第45話
「おい、聞いたかリーダー。例の噂」
「例の?なんのことだ?」
「今探索者界隈で話題のあいつのことだよ」
「ひょっとして、それは私のことか?」
「いや、あんたじゃねーよリーダー。確かに日本最強の探索者って言われてるあんたの話題は日々事欠かないけどよ。そうじゃなくて…流石に自惚れがすぎるぜ」
「ああ、ひょっとして…例の新人の話か」
「そうだよそれだよ。実習一日目で中級探索者になったっていう、高校生の話だ」
「俄には信じ難いな。私だって下級から中級に上がるのに一週間を要したんだ。それを、まだ探索者にならないうちから中級の称号を与えられるなんて…そんなことがあっていいのか?」
「俺も最初は金でも積んだんじゃねーかって思ったんだけどよ…どうも違うらしいんだ。世間には公表されていないが、監督者つきの実習で桁違いの強さを示した実習生には中級以上の称号を与えてもいいっていう隠されたオプションがあるらしい。その高校生には、それが適応されたんだ。まぁ、今回が初めてのことらしいがな」
「桁違いの実力を示す…一体何をやったんだい、その高校生は?」
「これはあくまで噂の域をでないんだが…どうもそいつ、実習中に起こったスタンピードを1人で殲滅したらしいんだ」
「スタンピードを…?流石に冗談だろう?」
「いいや、ある情報筋によると結構信憑生は高いって話だ。実際にそのスタンピードによって下級冒険者の2人が命を落としている。そいつが殲滅しなかったら、地上まで到達したんじゃ何かって話だ」
「そうか…」
「他にも、その場に居合わせた実習生がその時のことをネットで語っている動画が有名になっていたな。最初はただの釣り動画だと思われていたようだが、色々明らかになるうちにどうもそいつが話していることが嘘じゃねえってことになってきたんだ。そいつがいうには…その高校生は炎系のスキルで、数百匹以上のモンスターを焼き払ったらしい。たった一撃でスタンピードを壊滅させたそうだ。信じられるか?」
「…事実だとしたらとんでもないことだが…流石に全てを信じるわけにはいかないな」
「もちろん今広まってる噂の中には、脚色されたり尾鰭がついているものもあるだろうな。中にはそいつが、最近第七ダンジョンを起点に起こったモンスター・ハザードで大活躍した、あの謎の男と同一人物だっていうやつまでいるくらいだ。確かに…その高校生が実習で潜ったダンジョンが第六ダンジョンって言われてて距離は近いけど…流石にこれはデマだろうな」
「…ふむ。それで結局、本題はなんだ?まさかそんな噂話を語り合うために私の元に来たのではないだろう?」
「もちろんだ。今日きたのは、他でもない。そいつを俺らのクランに招待しないかっていう提案だ」
「…そうくると思ったよ」
「なぁ、リーダー。考えてもみてくれ。確かに噂の全部がしんようできるとはいえねーが、少なくとも実習一日目で中級探索者になってるのは事実なんだ。調べたところ、そいつの家は名家でもなんでもなくて、住まいは数畳のボロアパートらしい。つまり金でライセンスを買ったせんもありえない。となると、そいつにかなりの実力がある可能性が高くないか?他のクランに引き抜かれる前に声はかけておくべきだと思うんだ」
「ふむ…しかしなぁ…もしそれでそいつが役立たずだったら、我らがクランの名前に傷がつくぞ。リスクがデカすぎる」
「その辺の方法は考えてあるさ。いきなりクランへ招待するんじゃなく、まずはそいつを監視する。人を付けて監視させて、本当に探索者として実力があるかを見極めるんだ。そして、本当に噂通りの強力なスキルを持っているんだとわかったら正式にクランとしてオファーを出す。どうだ?完璧だろ?」
「ふむ…確かにそれならリスクを取る必要もなくなるな」
「じゃあ…リーダー、監視員をつけることを許可してくれんのか?」
「ああ。許可しよう。誰でもいい。適当に末端の人間を使ってそいつの身辺を調査させろ。資金はクランとして提供しよう」
「そうこなくっちゃ!じゃあ、早速動くぜ。吉報を楽しみに待ってな、リーダー」
「うむ。くれぐれもしくじるなよ。おそらく他のクランもそいつに接触してくる可能性が高いから、その時は出来る限り妨害しろ。そいつが噂通りの実力なら、確実に我がクランに引き込まないといかん」
「おうよ。任せとけ、リーダー」
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