第44話
「本当に日本へ行くおつもりですか、エレナ王女」
「ええ、もちろんです。今更引き返せません」
「し、しかし…この転移の術式は何千年も前のもので、正常に作動するかどうかも怪しい代物です…失敗して時空の狭間にでも取り残されたらどうするおつもりですか…?」
「そうなっても構いません。あの方…ショーゴ様のいない世界で時を過ごすより百倍マシです」
「ああ、エレナ王女。どうか考え直してください。ようやく魔王が討ち滅ぼされ、世界が平和を取り戻したのです。新しいパートナーを見つけて、どうかこの世界で幸せに過ごされることを検討してください」
「無理です。私の好きな人はショーゴ様。それは変わりません。私はなんとしてでもショーゴ様の故郷である『ニホン』へ転移して、再会を果たすのです」
「ええ、存じ上げていますとも。あなたがどれだけあのかたを思い、慕っておられるかは。けれど仮にニホンへの転移に成功したとしても、彼に会えるとは限らないのですよ?最悪のたれ死んでしまうことも…」
「だから、何度も言っているでしょう?危険なのは百も承知。ショーゴ様に会えない可能性の方がはるかに高いことは十分にわかっています。それを覚悟で私は『ニホン』へ旅立つ決意をしたのですから」
「…そう、ですか…そこまでいうのなら、私どもにあなたを止める理由はありません…今転移陣は一度に1人しか送れないため、誰もあなたにお供をすることは出来ませんが…エレナ王女。どうかお一人でも強く生きてください」
「ええ、そのつもりよ。これまで私に支えてくれてありがとう、みんな。おそらくこれが今生の別になるでしょうね。さようなら」
「うぅ…エレナ王女…どうかご無事で…」
「達者でお過ごしください、エレナ王女…」
「さあ、魔法陣に魔力を流して?転移の古代魔法を発動させるのです」
「…っ…わかりました…」
エレナに付き従う従者たちが、エレナの踏んでいる転移陣に魔力を流す。
すると部屋全体が光に包まれ、彼らは視界を奪われた。
やがて光が消える頃には、転移陣もろともエレナ王女は完全にその場から姿を消していた。
「ああ…どうか彼女が無事に彼の方の元にたどり着けますように…」
決死の世界間転移に踏み切った主人の身を案じる従者たちは、膝をつき、手を合わせて自らの信じる神に祈りを捧げるのだった。
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