第40話


「っとと」


何秒間俺は落ちていただろうか。


縦穴に飛び込んでから数秒後、俺は地面へと突き当たった。


受け身をとって地面に転がる。


そして周囲を見渡した。


「さて、ここは何階層だろうか…」


ただ一層下に降りただけ、ということはないだろう。


あれだけの滞空時間があったのだから、確実に三層以上は落ちている。


ヘタをすると、それ以上に下の階層に来てしまったのかもしれない。


「遅くなるといけないよな。すぐにでも地上を目指そう」


帰りが深夜になると、アパートで俺の帰りを待っている美久に心配をかけてしまう。


俺は何階層落ちたか判断できない今、すぐにでも地上を目指して進みつつ、その道中のモンスターを狩るのが得策かと考えた。


地上への道を見つけるために、周囲を見渡す。


「ん?道が、ない…?」


奇妙だ。


360度、どこを見渡しても道がない。


俺がいる空間は四方向を巨大な大岩に囲まれていて、出口らしきものも見当たらなかった。


「あ…まさか…」


こう言った形態の空間には覚えがある。


もしかして…


「ボス部屋に来てしまったのか?」


ボス部屋。


それはダンジョンに十階層ごとに存在する巨大な空間であり、そこには階層主またはボスモンスターと呼ばれる非常に強力なモンスターがいる。


ボス部屋は、一度入ると入り口が消失してボスを倒すまで出られない。


どうやらあの縦穴は、二層から直接この十層のボス部屋まで繋がっていたらしい。


「こんなことってあるか?」


まさかボス部屋まで落ちてきてしまうのは予想外だった俺は、周囲を見渡して途方に暮れる。


と、その時だ。


『ウゴオオオオオオオ…』


突如背後から唸り声が聞こえる。 


「ん?」


俺が振り向くと、ヌッと暗闇から巨大なモンスターが姿を表した。


「またトロールか」


『ゴアアアアアア!!!』


トロールだった。


この間のモンスター・ハザードの時のハザードボス。


そういや10層のボスってのは大抵トロール系のモンスターだったな。


でかいだけが取り柄の雑魚。


さっさと片付けてしまおう。


「クロック・ロック」


俺は前回のように時を止めてさっさとトロールを片付けようと試みた。


しかし、止まっているトロールに魔法を撃ち込もうとしたところでハタと思いとどまる。


「そういや、この世界に来てから肉弾戦とかやってないな」


アルカディアから日本へと帰ってきて、何度か魔法を使うタイミングなどはあった。


しかし、よくよく考えてみると肉弾戦なんかはしていなかったなぁ、と思う俺。


「体が鈍らないうちに感覚を思い出しておくか」


俺は魔法を使うのをやめて、ストレッチを始める。


「おいっちに、おいっちに」


『ウゴオオオ!!!!』


柔軟体操をしている俺に、トロールが殴りかかってきた。


「さあ、やろうか」


俺は振り下ろされるトロールの巨腕を避けることなく、真正面から自分の拳をぶつけていった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る