第39話


「ようやく放課後だ…」


全ての授業が終わり、放課後になった。


俺は早足で校内を出て、ダンジョンへと向かう。


「今日が初めての探索日か…頑張らなきゃな」


探索者になったのはつい数日前だが、ぐずぐずしている暇はない。


一刻も早く貧乏生活から抜け出すために、俺は今日、早速ダンジョンに潜るつもりでいた。


まずダンジョンの近くに建てられた探索者センターへ行く。


「荷物を預けて…それから武器を借りよう」

コインロッカーに教科書の入ったカバンを突っ込む。


それから探索者カードを提示して、俺はアーマーと剣という装備一式を貸し出してもらった。


全ての探索者は、このように探索者カードを提示することで装備を貸し出してもらえるのだ。


「さて、行くか…!」


更衣室で装備を身につけた俺は、いよいよダンジョンへと向かうことにした。


本来なら、探索者はダンジョンに潜る前に受付窓口でクエストと呼ばれる依頼を受ける。


クエストには達成条件というものがあり、それをクリアすると報酬が支払われるといった仕組みだ。


探索者の収入は主に、このクエスト報酬と魔石の換金料を合わせたものとなる。


そして多くの場合、クエストを受けた方が、ただモンスターを討伐して魔石を換金するよりも実入りが多くなる。


けれど俺は今日はクエストを受けない。


依頼達成の自信がないわけではないが、一応初回だし、放課後だしな。


万一クエストが達成できなかったときにペナルティを食いたくない。


クエストはしっかりと一日通してダンジョンに潜れるときに受けるべきだろう。


そういうわけで、俺はモンスターの魔石目当てでダンジョンへと潜ることにした。


「カードをここにかざして…」


ダンジョンの入り口は鋼鉄の扉で塞がれており、近くにカードの読取機が設置されている。


俺が自分の探索者カードをかざすと、ピッと電子音がして、鋼鉄の扉がゆっくりと開いた。


「さて、行こうか!」


現れたのは、奥へと続く薄暗い洞窟。


俺は武器を構えて、一歩目を踏み出したのだった。



『グギャッ!?』


「これで五匹目だ」


悲鳴をあげて、ゴブリンが倒れ伏した。


切断された腕から血を流しながら痙攣していたが、やがて動かなくなる。


絶命すると、すぐにその肉体は空気に溶けるようにして消えていった。


俺は後に残された魔石を回収する。


ダンジョンに潜ってから半時間ほどが経過した。


現在の階層は二階層。


俺はこれまでにゴブリンを五匹ほど仕留めていた。


確かゴブリンの魔石は一つ相場が百円だったから、今のところ稼ぎは五百円。


時給にすると一千円ほどのペースだ。


「うーん…これだとバイトと変わらないよな」


俺はそんなぼやきを漏らす。


仕方のないことではあるが、やはり雑魚モンスターばかりの上層は実入りが少ない。


こんなところでどれだけ狩りを続けたとしても、探索者の平均年収である二千万には到底及ばないだろう。


ガッツリ稼ぐには下層へ降りて、強力なモンスターを倒す必要があるな。


とはいえ今日は夕方から潜っているので、そこまで下層にも行けそうにない。


「ん…?」


ふと俺は前方にあるものを発見した。


「縦穴じゃないか」


コー、コーと風が吹き抜けているそれは、下層へと繋がっている縦穴だった。


ダンジョンには、たまにこのような縦穴が存在して、階層間の階段を使うよりも手っ取り早く下層へと降りることが出来るようになっている。


縦穴はともすれば非常に便利ではあるのだが、しかしあまり使用は推奨されていない。


なぜなら縦穴がどこまで繋がっているのかわからないからだ。


一層下に落ちるだけならまだいいのだが、二層、三層…時には十層以上も下に落ちてしまうことがある。


そうなると自分の実力に見合わない強いモンスターに遭遇してしまう可能性が出てくるし、何より落下のダメージで死んでしまうかもしれない。


故に、縦穴は相当実力に自信のある探索者以外は基本使わないのだ。


「けど、今の俺にとっては都合がいいよな」

俺は迷わず縦穴に身を投げた。


今の俺にはいちいち一層ごと下へ降りていく時間はない。


だから、このような縦穴は非常に便利だ。


万一何階層も下へと降りてしまったとしても、俺ならモンスターに苦戦することもない。


ダンジョンなんて、アルカディアで腐るほど踏破してきたからな。


魔王を倒した俺なら、最下層のボスにだってそれほど苦戦せずに勝てるはずだ。


「おおお…、結構落ちるな…」


ヒュゴオオという音を耳元で聴きながら、俺は下層へ下層へと落ちていった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る