第24話


「正直言って驚きましたよ、安藤さん。あなたのスキルがあそこまで強力だとは」


あれから。


ゴブリン・リーダーを葬った俺は、監督者とともに目的地である三階層を目指して歩みを再開させていた。


歩きながら、監督者は仕切りに俺を褒め称えた。


「私は今までに五十人を超える新規探索者に監督者として付き添ってきましたが、あなたのような戦闘なれした方は初めてです。失礼ですが、本当にただの高校生なのですか?」


「ええ、そうです」


「そうか…最近の高校生はすごいんですね…」


何やら感心して頷いている監督者。


今のところ、俺への評価は相当高いようだ。


このまま順当に行けば、実習は無事に通過して、晴れて探索者になることが出来るだろう。


気をつけるべきなのは…さっき亜空間収納を思わず使ってしまった時みたいに、うっかりをやることくらいだな。


「さて、そろそろ三階層が近づいてきましたね。三階層に到達したら、地上へと引き返しましょう。それで一日目の実習は終わりです。ちなみになんですが、五回目の実習までには一度十階層まで到達してもらいますから、覚悟しておいてください」


「わかりまし……ん?」


「どうかしたました?安藤さん」


「何か聞こえません?」


「え…?」


監督者が実習の段取りについて解説している最中、俺は遠くからたくさんの気配が近づいてくるのに気づいた。


それと同時に、ダンジョン全体をグラグラと揺らすような足音もセットになって接近してくる。


「本当ですね…何か聞こえるようです」


監督者も異変に気づいたようだ。


ダンジョンの壁に耳を当てたりして、音を確認している。


そうこうしている間にも、音は間近へと迫っていた。


「なんか不味くないですか」


嫌な予感がした俺はそういった。


監督者は頷いた。


「そうですね。念のため、離れておきましょうか。何が起きるかわからない、故に安全マージンは常に確保するのがダンジョン探索の鉄則ですから」


そんなことを言った監督者が「こっちです」と踵を返して引き返そうとしたその時だ。


「逃げろおおおおおお!!!」


声が聞こえてきた。


ダンジョンの奥…すなわち三階層へと向かう方向からだった。


「え?」


「ん?」


俺と監督者が同時に声の方向を見やる中、暗闇の中から二人組が走ってこちらへ飛び出してきた。


1人は監督者の制服、そしてもう1人は実習生用に貸し出されている装備で武装している。


要するに、現在の俺たちのような実習生と監督者のペアだった。


「何があったんです!?」


俺担当の監督者が何やら慌ただしい2人に尋ねる。


向こう側の監督者が言った。


「スタンピードだ!!」 


続けて実習生が言った。


「大量のモンスターが迫ってきています!!逃げましょう!!」


「「…っ!!」」


ようやく俺たちはことの重大性を理解した。


すぐに2人に伴って反対方向へ走り出す。


スタンピード。


それはモンスターの大群による襲撃を指す。


通常、モンスターは種が違えば群れることはない。


しかし、稀に種を超えて、モンスターが数百匹の大群となって人や村を襲うことがある。


災厄とも呼ぶべきその事象につけられた名称が、スタンピードなのだ。


ちなみにスタンピードに巻き込まれたモンスターは非常に興奮状態となることが知られており、ちょっとやそっとでは進行を止めない。


ゆえに対処法は殲滅、もしくは逃げの2択である。


「追いつかれらまずい!!走れ!!」


「くっ、まさか実習中にスタンピードに巻き込まれるとは…!」


「お互いに運が悪いな!!」


「全くですっ!!」


同僚なのか、前をいく監督者の2人はそんな会話をしている。


一方で、彼らの気づかないところで疲弊している人物がいた。


逃げてきた実習生である。


「はぁ、はぁ、はぁ…」


肩で息をしており、足元がふらついている。


体力が限界に近いようだ。


この状態だとあと五分ももたないだろう。


「ちょっと待ってください!!この人が!!」


俺は前の2人に止まるように促す。


「どうした!?」


「止まるな!!追いつかれるぞ!!」


「ま、待ってくださいっ…自分、もう走れ、ません…」


ぜぇ、ぜぇ、と苦しそうに喘ぎながら実習生が足を止めた。


スタンピードによって暴走したモンスターはどんどん近づいてくる。


「ま、まずいぞ…!どうする…?担いで逃げるか…?」


「そ、それでは追いつかれてしまう…ま、マニュアルでは見捨ててもいいことになっています…」


監督者たちが、もう走れそうもない実習生を見て、相談する。


俺の監督者から、見捨ててもいいという恐ろしい言葉が出た。


それを聞いた実習生が、青ざめる。


「や、やだ…!見捨てないで…!」


ガタガタと震えてへたり込んでしまう。


「くそっ!!どうすれば…!」


「逃げなければ!!もうそこまで迫ってきています!!」


監督者たちが焦りを見せる中、俺は静かに踵を返し、モンスターたちが迫っている方向へ向けて歩き出した。


「な、何をしているんです、安藤さん!?」


「離れていてください。俺があいつらを殲滅します」


俺は対して頼りにならない監督者にそう言い捨てて、スタンピードによりたけり狂ったモンスターに手を構える。


そして、最大火力の火属性魔法を放った。


「インフェルノ」


瞬間、炎地獄が俺の前方に体現した。


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