第23話
「安藤さん…?魔石はどこにやったんですか?」
「あ…」
しくじった。
そう思った。
ついアルカディアにいたときの癖で、手に入れた魔石を亜空間に収納してしまった。
俺のスキルは炎を操るスキルであることが監督者には知られているために、スキルですと言い張ることも出来ない。
俺は必死に誤魔化す策を頭の中で寝る。
「こ、これは手品です手品」
「て、手品…?」
「ええ。ちょっと待ってくださいね…ほら!」
俺は一旦監督者に背中を向けて、こっそり亜空間から魔石を取り出してから振り向いた。
「魔石があるでしょう?消えたように見えたのは手品ですよ」
「な、なるほど…焦りました。私の目には本当に消えたように見えたので」
監督者が納得顔になる。
俺はほっと胸を撫で下ろした。
「安藤さん。驚いてしまうので今後こういうことはしないでください。ダンジョンでは常に緊張感を保ってもらいます」
「すみません。肝に銘じておきます」
「お願いしますよ」
俺がなんとか誤魔化せたことに安堵する中、監督者は「こちらです」とさらに奥を目指して歩き始めた。
それから1時間ほどが経過した。
一階層を踏破した俺たちは、二階層へと続く階段を降りていた。
あれからさらに三回ほど、俺はゴブリンと遭遇していたが、いずれも炎魔法一発で葬っていた。
おかげで監督者の反応もずいぶん好感触だった。
「今日の目標は二階層を踏破し、三階層に到達することです。三階層までは出現するモンスターはゴブリンとスライムのみであまり危険のない階層といえます。あまり緊張せずに進んでいきましょう」
「わかりました」
監督者の話を聞き流しながら、俺は適度に相槌を打つ。
そんな中、前方からゴブリンやスライムよりも少しだけ強い存在感を放つモンスターがやってきた。
「まずいです!!イレギュラーが発生しました!!」
その存在を目視した監督者が、慌てて俺に下がるように指示する。
現れたのは、人間の身の丈ほどもあるゴブリン。
ゴブリンの上位種である、ゴブリン・リーダーだ。
「本来この階層には出現しないモンスターなんですけどね…このようにダンジョンにはイレギュラーがつきもので、何があるかわかりません。油断は大敵です!」
俺を庇うようにしてゴブリン・リーダーと相対しながら、監督者が説明を付け加えてくる。
「ゴブリン・リーダは安藤さんには荷が重いかもしれません。ここは私が倒すので下がっていてください」
「いえ、その必要はありません」
「え…?」
せっかくのイレギュラーだ。
ここでさらに俺の実力を見せて、評価を上げておくとしよう。
前に出た俺は、こちらへ突進してくるゴブリン・リーダーに対して魔法を放った。
「燃えろ」
『ギエエエエエエ!!!』
紅蓮の炎がゴブリン・リーダーの体を包み込んだ。
そのままメラメラと燃焼し、黒焦げとなったゴブリン・リーダーはドサリと地面に倒れた。
しばらくの間ビクビクと痙攣していたがやがて動かなくなり、死体の消失が始まった。
「な…!?」
監督者が目を丸くして、ゴブリン・リーダーが残した魔石と俺を交互に見てくる。
俺はそんな監督者に親指を立てた。
「これくらいだったら簡単に倒せます。どうですか?俺のスキルは」
「…」
相当驚いたのか、監督者が次の言葉を発するまでに十秒ほどの間があった。
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