第22話


「では行きましょうか、安藤さん。準備はいいですか?」


「はい。大丈夫です」


俺は監督者とともにいよいよダンジョンへと足を踏み入れる。


「ダンジョンの入り口はこのように扉で封鎖されています。この読み取り機に探索者カードを翳すと、このように扉を開けることができます」


監督者が堅牢な扉の横に設置された、読み取り機に自分の探索者カードを翳す。


すると、ウィーンという音と主に扉が開いた。


そしてその奥の、暗いジメジメとした洞窟が現れる。


「さて、行きますよ。武器を構えてください」


「はい」


俺は実習用に貸し出されている剣を構え、先導する監督者に続く。


「このようにダンジョンは非常に足場が悪く、湿っています。転ばないように常に注意してください」


「はい」


監督者が歩きながら、ダンジョンに関して様々な説明を加えておく。


それは当然全て俺の知っている情報だが、実習に合格するために、俺は真剣な表情で頷く。


「ダンジョンは階層構造になっており、下へ行けば行くほど、出現するモンスターは強くなります。ここ一階層では、出現するモンスターはおもにゴブリンとスライムであり、単体なら子供でも倒せるほどに非力です。しかし、油断はしないでください。群れで襲われたら厄介ですし、たまにネイチャーウエポンと呼ばれる武器を装備していることもありますので」


「わかりました。気をつけます」


俺は真剣さをアピールするために、神妙な顔で頷いておいた。


そうやってシバラク監督者とダンジョン内を歩いていると、前方から一つ、気配が近づいてきた。


距離にして100メートルと言ったところか。


この感じはおそらくゴブリンだろう。


「来ます!前方、ゴブリンが1匹!!注意してください!!武器の装備はなし!!」


距離が10メートルほどになって監督者がゴブリンの存在に気づいた。


マニュアル通りの報告をして、俺に注意を促してくる。


俺はゴブリンに向かって剣を構えた。


「さあ、安藤さん!初陣です。あなたの力を私に見せてください!万一の時はすぐに助けに入りますから」


監督者が後ろへと下がり、俺にゴブリンを倒すように促してくる。


俺は前に出て、ゴブリンと相対する。


『グゲゲ…』


鳴き声を上げながら、ゴブリンはゆっくりと近づいてくる。


久々のモンスターとの戦闘。


この感覚、非常に懐かしいな…


俺はこの日本での平和な半年間で忘れていた、戦闘心を思い出しかけていた。


「な、なんだこの気配は…!?どこからか、強力なモンスターが接近でもしてきているのか…?」


おっとと。


危ない危ない。 


ついさっきを振り撒いてしまった。


監督者が驚いているのを見て、俺は慌てて気を抜いてリラックスする。


「あれ…?威圧感が消えた…?なんだったんだ?」


監督者が首を傾げる中、俺はゴブリンに対して対外的には俺のスキルということになっている炎魔法を放った。


「火球」


ぼっと炎の玉が豪速で飛んで、ゴブリンの顔面を捉えた。


『グゲ!?』


脆いゴブリンの頭部は、そのままもげて胴体から離れた。


ゴブリンは一瞬で絶命した。


「おおお!」


一瞬でゴブリンを仕留めた俺に、監督者が拍手を送る。


「素晴らしい!!一瞬で仕留めてまうとは…!私が見た中で1番の実習生です、あなたは…!」


「それはどうも」


「初めての戦闘なのに迷いもない。普通はどんなに強力なスキルを持っていても怖気付いてしまったりするものなのですが」


「そういうものなんですか?」


「ええ。あなたの思い切りの良さは、素晴らしい。では、忘れずに魔石を回収してください。モンスターが死ぬとその死骸は間も無く消失しますが、核である魔石は残ります。これが、ダンジョンからもたらされる最も重要な資源であり、地上で高値で監禁することができます。探索者の収入の主を占めるのも、この魔石の換金料ですから魔石は大事に保管して持ち帰る必要があります」


「わかりました」


俺は頷いてゴブリンの死体の元へ向かう。


すでにゴブリンの死骸は、そのおおよそが消えて無くなっており、後には紫色の小さな小石…モンスターの核である魔石が残されていた。


手に取った俺は、アルカディアでしていたように魔石を亜空間に収納する。


「え…」


すると、それを見ていた監督者が唖然とする。


「あ、安藤さん…?今魔石をどこに…?」


「あ…」


俺は完全にやらかしたと思った。

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