第21話
「行ってくるぞ、美久」
その日。
俺は早朝から外出の準備をしてアパートを出ようとしていた。
ついこの間受けた探索者になるための筆記試験に万点合格したという通知が届いたのがつい二日前。
そして今日、俺はいよいよ探索者見習いとして、監督者とともにダンジョンへ潜り、実習を行う。
実習の回数は全部で五回。
この五回が終わるうちに、監督者に探索者としてやっていくための実力を認められれば、正式に免許が発行されて、俺は下級探索者としてダンジョンに潜ることが許可されるようになる。
俺は必ず探索者になり、この貧乏生活から抜け出してみせる。
「ちょっと待って!お兄ちゃん!」
そんな決意を胸に歩き出そうとした俺を、美久が呼び止める。
「こ、これ…」
両手でつつんでいた何かを大事そうに差し出してくる。
「これは…?」
「お守り。神社で買ったの」
「!?」
それは小さなお守りだった。
安全祈願と書かれている、近くの神社で売られているものだった。
俺は思わず目を丸くしてしまう。
「み、美久…これは…?」
「お兄ちゃんが無事に帰ってきますように、って。私のお金で買ったの」
「け、けど…お前外に出れないんじゃ…」
「こ、怖かったけど…お兄ちゃんのために勇気を出して…頑張って買ったんだ…」
体をもじもじさせながらそんなことをいう美久。
俺は思わずその体を抱きしめてしまう。
「美久っ!!」
「きゃあっ!?お兄ちゃん!?」
ああ。
なんて優しいできた妹なんだ。
ずっと外に出れなかったのに、俺のために神社まで行ってお守りを買ってきてくれた。
普通の人間にとっては、些細なことかもしれないけれど…ずっと引きこもっている妹にとっては立った数百メートル歩いて神社にお守りを買いに行くことがどんなに怖く、辛い試練だったか、俺にはわかる。
そこまでして俺に無事を願ってくれるのか。
「ありがとう、美久。約束だ。俺は死なない。必ず帰ってくる」
「うん!待ってるね、お兄ちゃん!」
笑顔の美久に見送られて今度こそ俺はアパートを後にした。
必ず…必ず実習を成功させる。
監督者に実力を示し、絶対に探索者になる。
そして大金を稼いで、美久をこの惨めな生活から救うんだ。
それから2時間後。
「では、準備はいいですか、安藤さん。ここがダンジョンの入り口です。気を引き締めてください。ここから先は、いつ何時モンスターに襲われ、命を落とすとも限らない魔境なんですから」
「はい!覚悟はできています!!」
ダンジョンの入り口に立った俺は、監督者とともにいよいよダンジョンの内部へと足を踏み入れようとしていた。
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