第16話


「帰ったぞー」


「お兄ちゃん!お帰りっ!!」


アパートに帰ると、美久が駆け寄ってきた。


期待するような眼差しで俺を見てくる。


「ど、どうだった…?」


「実技は受かったぞ!筆記も手応えはかなりあったな。多分受かってると思う」


「本当!?よかったぁ…」


自分のことのように美久がはにかむ。


だが、直後には少し不安げな顔をし出した。


「で、でも…もし受かったら、お兄ちゃん探索者になるんだよね…?」


「ああ。そうだ。必ずたくさん稼いでこの貧乏生活から抜け出して」


「やっぱり危険だよ。探索者になるのは」


俺の言葉を遮って美久が言った。


「今日テレビで見たんだけど…探索者の死亡率って全職業の中で一番高いんでしょ?」


「それは…」


「お兄ちゃんが死んじゃうなんて、私嫌だよ。今の生活で私十分幸せだから…お兄ちゃん、探索者になるのは…ひゃあっ!?」


俺の身を案じる美久が愛おしくて、俺は思わず美久を抱きしめる。


「俺のことを心配してくれるんだな。ありがとう美久。だが、大丈夫だ。お兄ちゃんは死んだりなんかしない。危険は承知だ。でも、お兄ちゃんのスキルは強いから、安全マージンをしっかりとれば大丈夫だと思うんだ」


「ほんとぉ…?」


「ああ。死んでお前を1人になんてしない。約束する」


「…うん、わかった」


「一緒にこの貧乏生活から抜け出そう?」


「…」


コクコクと俺の胸の中で二回頷く美久。


俺は美久を解放して、目尻に溜まった涙を拭ってやる。


「2人で前に進もう。俺たちなら必ず出来る」


「う、うん…!お兄ちゃん、私に出来ることがあれば、言ってね!」


美久が幸せそうに笑いながらそんなことを言ってきた。

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