第15話
探索者になるための試験を終えて帰路を歩いていると、女性の悲鳴が聞こえてきた。
見れば、少し離れた場所で、OLっぽい格好の女性が、パーカー姿の男に襲われていた。
「ゲヘヘ…諦めな!お姉ちゃん!俺のスキルからは逃れられねぇ!!この力を手に入れてから、俺は誰にも負けたことがねぇんだ!!」
「いやあああっ!!やめてええええっ!!」
悲鳴をあげる女性に男は嗜虐的な笑みを浮かべる。
よく見ると、襲われている女性は、直接男に触れられているわけでもないのに、地面に縫い付けられたようにして横たわっており、身動きが取れていない。
どうやら男がスキルを使って女性を拘束しているようだった。
「おいおい…スキルを使った犯罪は、普通の犯罪よりも罪が重いんだぞ…知らないのか?」
全世界の人間がスキルという特殊技能を獲得してから、犯罪件数は各国で一気に増えた。
それまでは、世界一治安の良い安全な国として世界に認められていた日本も例外ではなかった。
スキルは強さという点において平等ではなく、強いスキルを持ったものは持たざるものを簡単に蹂躙できてしまう。
そのために、犯罪者が、力に訴えて他人をねじ伏せることが以前より簡単な世の中になってしまったのだ。
当然政府はスキル犯罪対策科という新しい警察組織を作ったり、スキルを使用した犯罪を厳罰化するなど、法整備をして対応したが、しかし、それでもスキル出現前と比べて犯罪はかなり多いのが現状だ。
中には、強力なスキルを持ったものが自警団を名乗り、非営利のボランティア活動としてスキルによる犯罪を取り締まるなどする前向きな動きもあるらしいが…
…それはともかく今目の前で起こっていることはとても見逃せない。
俺は女性を助けるべく、男に近づいていった。
「おい、何してんだ?」
「あぁん?なんだてめぇ」
いきなり現れた俺を、パーカーの男は威圧してくる。
「邪魔すんじゃねぇ。テメェもこうなりたいか」
なすすべなく地面に這いつくばっている女性を指さして男がいった。
「たす…けて…お願い…っ」
地面に頭を固定されたまま、女性が涙ながらに助けを求めてくる。
元勇者として…見逃せる状況じゃないな。
「スキルを使った犯罪は最低でも10年以上の懲役だぞ?わかってるのか?」
「はっ。だからどうした?バレなきゃ良いのさ」
「これ以上その女性に暴行を加えるなら、警察に通報する」
「ああいいぜ。やってみろよ。出来るならなっ!!」
男がカッと目を見開いた。
次の瞬間、若干ではあるが体が重くなったような気がした。
それと同時に、ビキビキと周囲の地面に亀裂が入り、陥没。
俺の体がゆっくりと沈み込んでいく。
「はっはっー!!!これが俺のスキル!!重力操作だ!!」
男は得意げに言った。
「どうだ?身動き一つ取れないだろう?俺のスキルは最強なんだ。誰も俺には逆らえねぇ!!」
「なるほど。確かに強力なスキルだな」
重力操作は、アルカディアでは古代魔法の一つで、使えるのはほんのひと握りの一流魔法使いだけだった。
それをスキルとして修行もなしに手に入れてしまったのだから、この男がここまで自惚れているのも頷けるというものだ。
だが…
「まぁ、この程度なら簡単に動けるんだけどな」
「な、なにぃいいいいい!?」
俺は地面にめり込んだ足を引き抜いて、そのまま男へ近づいていく。
重力操作。
確かに強力だが、この程度の重力負荷なんて、俺にとってはあってないようなものだ。
重力使いを名乗りたいんだったら、人間ぐらいは即座にぺちゃんこにして即死させるぐらいでないとな。
「今ならまだ許してやる。その女性を解放しろ」
「舐めるなぁあああああ!!もっと負荷を上げてやるっ!!潰れろっ!!!」
「お前が潰れろ」
「ぶへぇ!?」
性懲りもなく抗おうとした男に、俺は拳を叩き込んだ。
メキョッと音がして、男は吹っ飛び、壁に激突。
そのまま白目を剥いて動かなくなった。
殺してはいない。
ただ鼻の骨は確実に折れただろうな。
「大丈夫ですか?立てますか?」
「あ、ありがとうございます…!」
男が気絶し、スキルから解放された女性に俺は手を貸す。
「助かりました…!本当にありがとうございます…!ああ、死ぬかと思いました」
「いえいえ」
「なんとお礼を申し上げていいか…」
助けた女性は、俺がもう良いと言っても何度も何度も頭を下げてきたのだった。
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