第11話
ダンジョンが地上に出現してから半年が経過した。
その日。
俺は朝早くから妹に見送られてアパートを出た。
「行ってらっしゃいお兄ちゃん。本当に気をつけて」
美久が不安そうな表情で言ってくる。
俺は大丈夫だ、というように頷いた。
「そう心配するな。別に今日すぐにダンジョンに潜るわけじゃない。あくまで試験日だ、危険はない」
「うん…わかってるけど…」
「必ず探索者の仮免許取得してくるからな。期待して待っていてくれ」
「うん…!私、お兄ちゃんを信じてる」
「おう!」
美久とそんな言葉を交わした俺は、いよいよアパートを後にした。
住宅街の道を、意気揚々と試験場まで歩いて行く。
今日は以前から決まっていた探索者になるための試験日。
これから試験会場へ行き、探索者としてダンジョンに入る実力があるか測るための試験を受けるのだ。
これに合格すれば、探索者の仮免許が発行されて、俺は監督者付きではあるもののダンジョンに立ち入ることが出来るようになる。
「必ず合格するぞ…!」
ぐっと拳を握って気合を入れる。
ダンジョンが地上に出現してから半年。
すでに探索者という職業が一般に認められて久しく、なんとその平均年収額は二千万円を軽く超える。
探索者は瞬く間に人気の職業となり、たくさんの人が目指すようになった。
かくいう俺もそのうちの1人で、探索者になり、高額の給料をもらって美久に楽な生活をさせてやりたいと思っている。
何より、モンスターとの戦いなら俺の勇者としての力も生きてくるからな。
もしかすると、アマテラスが俺から勇者の力を剥奪せずに残してくれたのは、これが理由なのかもしれない。
「俺は魔王だって倒したんだ。探索者になってモンスターを倒しまくり、必ず今の貧乏生活から抜け出してやる!」
そう心に近い、俺は試験会場への道のりを急ぐ。
「これにて手続きは終了です。試験番号389番でお待ちください」
「ありがとうございます」
試験会場は、大きなドーム状の施設だ。
入るにはその前にある事務所で手続きをする必要がある。
個人情報の開示といくつかの質問にこたえ、俺は無事に試験番号を発行してもらった。
そこから別室に移動し、着席して待っていると、しばらくしてアナウンスで俺の試験番号がよばれた。
俺はいよいよドーム状の試験会場へと入っていく。
「うおおお…めっちゃ受験生がいるな…」
試験会場ないは人で溢れていた。
俺の現在立っている側が実技、そして向こう側が筆記試験の区画として、会場内は二分されていた。
俺は自分の番号帯の区画の列に並んだ。
最初は実技試験だ。
ここでは、モンスターに対する力、すなわち戦闘力を試される。
と言っても、別に空手の型だったり、柔道の技とかを披露するわけではない。
モンスターに対抗するための力とは、それすなわち、スキルのことである。
スキル…それは科学では説明できない特殊な力のことであり、ダンジョンの出現と同時に、全世界のすべての人間に発現した能力だ。
スキルには手品レベルの効果しか得られないちょっとしたものから、兵器レベルの物理的破壊をもたらせる強力なものまであり、人それぞれ千差万別だ。
そして、探索者になるにはより強力なスキルを持っていることが条件とされ、実技試験とは簡単に言えばスキルの強さを見極めるための試験だった。
「スキルか…なんだか懐かしいな…」
実は、このスキルという概念は俺にとって新しいものではなく、アルカディアにも存在した。
剣と魔法の世界アルカディアでは、スキルとは人族のみが生まれ持つ技能のことで、これは向こうの世界では、多種族と人族の力量の差を埋めるための特殊技能だと認識されていた。
そして、かくいう俺もアマテラスによってアルカディアに転生させられた時にスキルを得ており、それは非常に強力なものだった。
ただし、あまり使い勝手が良いものではなく、その効果も特殊であるため、俺は今日ここで自分のスキルを披露するつもりはなかった。
実技試験は、魔法で十分対応可能だ。
今後どうなるかはわからないが、まだこの世界に魔法を使えるものは現れていない。
だから、俺の使う魔法は、彼らにとってはスキルに見えてしまうことだろう。
「どのぐらいの規模の魔法がいいかな…?弱すぎてもダメだし…強すぎるとここの人を巻き込んだり、建物を壊しちゃうからな…」
列に並んで自分の順番を待ちながら、俺は自分の使える幾千の魔法の中から、何がこの状況に適切かを考えるのだった。
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