第4話
「エレナ王女!?」
俺がアマテラスに連れられて上空に登っている最中、ドレスに身を包んだ少女が姿を表した。
すれ違った百人全員が確実に振り返るであろうという美貌を持ったその少女は、俺に魔王討伐を依頼したアトラス王国の第一王女、エレナ・アトラスだった。
必死の表情で遠ざかる俺を追いかけてくる。
「別れの挨拶が必要ですか?」
「出来るならば」
エレナに気づいたアマテラスが俺に尋ねてきた。
「わかりました。時間ならありますし焦ることもありません。ゆっくり話してもらって構いませんよ」
アマテラスがそういうと、空に向かって登っていた俺の体が地上へと降りていく。
「ショーゴ様っ!」
そして駆け寄ってくるエレナと、俺は地上で向かい合った。
「エレナ…どうしてここに?危ないじゃないか」
「ショーゴ様!!無事に魔王を倒したのですねっ!!私、ショーゴ様が勝つと信じておりました」
「ありがとう。君たちのサポートのおかげで俺は魔王を倒せた。これでこの世界には平和が訪れる」
「はい…そうですね…」
「…?」
人類の怨敵である魔王が倒されたというのにエレナの表情はあまり明るくない。
「エレナ…?どうかしたのか?」
「あ、あのっ、ショーゴ様っ」
「お、おう…なんだ?」
「お忘れでしょうか。王とのあの約束を…」
「や、約束…?」
「はい。魔王を倒した暁には、私を妻として迎えてくれる、と…」
「…っ」
そ、そういえばそんな口約束も交わしたような。
あれはアトラス王の冗談だと思っていたが、まさか本気だったのか…?
「私は…ずっとショーゴ様をお慕いしてまいりました…だから、父上がああ言ったときに、すごく嬉しくて…私、ずっとそのつもりで」
「…っ」
そんな…
じゃあ、エレナは俺のことが…
「多分ショーゴ様は気づいておられないだろうな、と思っていました。こういうのもあれですが…あなたは自分へ向けられる好意に疎い方なので…」
「…」
否定でいない。
この世界で、今まで何度そのセリフを言われたことか…
俺ってそんなに鈍いだろうか。
「それで…どうか、私を妻として娶ってはくれませんか…?」
エレナ王女が上目遣いに見上げてくる。
俺は思わずドキリとしてしまった。
エレナ王女は絶世の美女だし、気立もいい。
正直、こんな状況じゃなかったら二つ返事でOKしている。
だが、今の俺は…残念ながら彼女の気持ちに応えることはできない。
「すまん、エレナ。君も知ってると思うけど、俺は元々この世界の人間じゃないんだ。俺には故郷があって、そこに妹を残してきている。そして俺は兄として…妹を幸せにしないといけない。だから…君と結婚は出来ない」
「…っ」
きゅっとエレナが唇を噛んだ。
その表情が悲しげに歪む。
だが、数秒後には、無理やり作ったような笑顔を浮かべた。
「えへへ。そうですよね」
「…」
「私如きが世界を救ったショーゴ様と釣り合うはずありませんものね」
「…っ」
「なんとなくこんな予感はしていたんです。でも、もしかしたらって思って自分の気持ちを伝えてみました。ご迷惑でしたね」
「…っ…え、エレナ…俺は…」
「わかりました。あなたのことはすっぱり諦めます。だから…最後に一つ、わがままを聞いてもらえませんか?」
「わ、わがまま…?」
「私と、キスしてください」
そういうや否や、エレナはさっと距離を縮めてきて、俺に口付けしてくる。
唇に柔らかい感触が重なった。
唐突のことに、俺はされるがままになる。
「「…」」
一分。
それぐらいの間、たっぷりと俺の唇を味わったエレナはやがて静かに離れた。
それから花が咲いたような、しかし、どこかに悲しさの見え隠れする笑みを浮かべた。
「一生の思い出にします」
「…っ」
俺はとっさになんと言っていいかわからなかった。
俺がかけるべき言葉を探していると、だんだんと俺の体が浮かび始めた。
上空へと引き寄せられ、エレナから離されていく。
「…さようなら、エレナ」
結局最後までなんと言っていいか分からず、俺はそう一言別れの挨拶を口にした。
それに対するエレナの返事は聞こえなかったが、多分「またどこかで」と言っていたんだと思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます