第2話


気がつくと俺は真っ白な世界にいた。


「どこだ、ここ…?」


俺は周囲を見渡す。


が、何も見つけられない。


白一色の無機質な世界だ。


歩こうと思って足を動かすが、体が宙に浮いているのか、前に出した足が空を切る。


どうしようもなくて俺が脱力していると、不意に俺の目の前で光の粒子が密集し、形を成し始めた。


そして気がついたときには、目の前に背中から翼を生やした、見目麗しい美少女が現れていた。


「こんにちは。安藤省吾さん。私はあなたを担当することになった女神アマテラスです。気軽にアマちゃんとでもお呼びください」


「は、はぁ…」


唐突の展開に俺はついていけない。


アマテラスと名乗った美少女は困惑する俺ににっこりと笑いかけた。


「混乱しているようですね。では少し現状を整理しておきましょうか。まずあなたは死にました。隕石に頭部を破壊されて。そのことはわかりますか?」


「い、隕石…?」


俺は記憶をたぐり寄せる。


確か夕方頃、俺はいつものように深夜バイトへ向かって家を出た。


そしてその道中、急に頭に衝撃がきて、倒れた。


そこから意識はない。


何かが落ちてきたな、とは思ったけど、あれって隕石だったのか…?


どんな確率だよ。


「隕石が落ちたことであなたは頭部を骨折。そのまま意識を失い病院で死亡しました。お悔やみを申し上げます」


「…」


「そしてここは天界です。今からあなたは異世界へ送られ、第二の人生を始めるのです」


「ちょ、ちょっと待ってくれ!!異世

界…!?死んだら天国に行くのではないんですか…?」


聞き慣れないワードに、俺は待ったをかける。


アマテラスさんは笑顔で教えてくれる。


「もちろんその選択肢もありますが…天国って退屈ですよ?あなたは若く死んだのでまだ異世界に転生するオプションを利用できます。ぜひ記憶を保ったまま第二の人生を謳歌されては?」


「よ、蘇れるってことか…?」


「ええ。地球では無理ですけど」


「…」


俺は考える。


自分のことを、ではない。


妹の美久のことをだ。


俺はあいつを残して死んでしまった。


俺がいなくて、引きこもりのあいつはどうなってしまうんだ…?


「妹さんのことなら心配ありませんよ」


「…!」


俺の心を読んだようにアマテラスさんが言った。


「彼女は警察に保護されています。間も無く生活保護施設に入ることになります。衣食住に関しては問題なく保証されますよ」


「そ、そうですか…よかった…」


それを聞いて安心した。


路頭に迷わないか心配だったが、そんなことはないようだ。


「それで、あなたはどうしますか?安藤さん。天国へ行くか、それとも転生するか」


「あ、あの…一つお願いがあるんですけど」


「なんですか?」


「俺は天国でも転生でも構いません。だから…妹に幸せな人生を送らせてはくれませんか?」


生活が保証されているとはいえ、唯一の肉親だった俺を失い、美久はきっと悲嘆に暮れていることだろう。


そんな彼女が、これから1人で生きていけるのか心配だ。


だから、いいパートナーでも見つけて幸せになれるように取り計らってくれないだろうか。


目の前の人物ならそれが出来る。


それはそんな気がしていた。


「願い事、ですか…まぁ、出来なくはありません。私にはあなたの妹を幸せにする力があります」


「…!じゃあ…っ!!」


「ですが、原則として天界のものがある個人や団体に肩入れするのは禁止されています。ですので、あなたの願いを聞き入れるのには条件があります」


「じょ、条件…?」


「はい…それはですね…」


アマテラスさんが妹を幸せにするための条件を口にする。


それを聞いた俺は、条件達成のあまりの難易度に絶句するのだった。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る