異世界で魔王を倒して日本に帰ってきたら、地上にダンジョンが出現しました
taki
第1話
ぐぅううう、と。
俺が台所で食器を片付けていると、夕食を食べたばかりの妹の腹がなった。
無理もない。
量があまりに少なすぎるのだ。
今晩の俺たちの食事はといえば、小さな茶碗半分ほどの米と海苔だけ。
互いに14歳、17歳と食べ盛りの年頃なのだから本当はお腹いっぱい夕食を摂りたいところなのだが、あいにく我が家ではこれが精一杯だ。
両親に死なれてからもう5年。
俺と妹2人きりの我が家では、俺の放課後のバイト代が唯一の収入源であり、貧しい生活を余儀なくされている。
「お腹すいたか、美久。俺の明日の朝食、食べてもいいぞ」
妹が可哀想になってきた俺は、ボロボロのソファに座ってもう読み飽きただろう漫画を眺めている妹にそう提案する。
俺の妹…安藤美久はフルフルと首を振った。
「ううん、いーの。大丈夫」
「遠慮することないぞ?」
「私は大丈夫。それよりもお兄ちゃんが私の明日の朝ごはんを食べてよ。お兄ちゃんは学校にいきながら働いて美久を養ってるんだから。お兄ちゃんがたくさん食べるべきだよ」
「…っ」
妹の気遣いにジーンと目頭が熱くなる。
ごめんな、美久。
俺の稼ぎが少ないせいで苦労をかけて。
今に見ていろ。
お兄ちゃん、勉強頑張って一流大学に入って大企業に就職して、高い給料でお前に楽させてやるからな。
「よし…行くか!」
そんなことを胸に誓った俺は、皿洗いを切り上げ、深夜のバイトに向かう準備を始める。
「じゃあ、行ってくるぞ」
「うん、行ってらっしゃい、お兄ちゃん」
バイトへの支度を終えて俺は玄関のドアを開ける。
家を出るときに、いつものように妹が走ってきて軽くハグをしてくれる。
これだけで頑張ろうって気になる。
朝早く起きて新聞配達。
学校で一生懸命勉強して帰ったら深夜のバイト。
二時ごろまで働き、三時に帰宅。
それから3時間ぐらい寝てまた新聞配達。
これが俺の毎日のスケジュールであり、非常にハードだ。
正直心身ともにすり減って、何もかも投げ出したいという気にもなってくるが、しかし、俺が蒸発すれば美久が飢えてしまう。
それだけはダメだ。
俺は兄として、なんとしてでも美久を幸せにする義務があるのだ。
よし、今日も頑張るぞ。
「留守番よろしく、美久。知らない人が来ても開けちゃダメだぞ?」
「うん、わかった」
美玖とそんなやりとりをして俺はいよいよ三万円で借りているアパートを出発した。
錆びた鉄の階段を降りて、住宅街を歩く。
「ふんふんふん〜」
疲れを紛らわせるために鼻歌を歌いながらスキップして歩いた。
それはちょうど、曲がり角に差し掛かった時だ。
「…っ!?」
ガンッ!!と唐突に頭部を衝撃が襲った。
何が起こったのか認識するまもなく、俺は転倒し意識を失う。
最後に、どさっという自分の体の倒れる音を聞いたような気がした。
”翌朝のニュース“
非常に不幸な事件が起きてしまいました。
昨夜未明、〜地区の〜に数十センチほどの隕石が落下し、たまたま近くを歩いていた〜高校の2年生、安藤省吾さんの頭部に直撃しました。
安藤さんは頭蓋骨を骨折。
病院に運ばれましたが、間も無く死亡が確認されたということです。
警察は、身寄りのない安藤さんの妹、安藤美玖さん(14)の身柄を保護したということです。
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