第38話
びっくりして見上げた矢代の顔は、絵の具でもついたみたいに赤かった。
とびきり酸っぱいレモンを口の中へ入れたいみたいに耳の下がキュッとする。
「なんか俺、ここんとこずっといろんな間違いばっかりで」
「矢代——」
「もうちょっと黙ってろ。本当は今だって俺が切り出さなきゃいけなかった。でも、なんて言ったらいいか……」
はあ、と矢代がまたため息を吐く。
「どうやったら2人で話せるかって考えたら、ゴミ箱漁ってた。そんなんばっかだ。そーいうの、俺にはなんか難しい」
手を伸ばしたら、矢代が私の手を掴んだ。
今までゴミ拾いしてたなんて、もうすっぽり頭から抜けていた。
思いもよらず繋がった手は、信じられないくらい熱い。
「はる」
私の人差し指と中指を握って、その反対の手で額を掻きながら矢代が私を呼ぶ。
それだけで少し涙が滲んだ。
「あのアイスさ、持ってろって意味で渡したんだけど、お前が食っちゃった時、痺れたんだ。たぶん、それで気がつかなきゃいけなかったんだよ、俺。はるが友達とか女とか、そういう括りからはみ出てるってこと」
私はもう片方の手を伸ばして、矢代の額に触れた。
その手は矢代のもう片方の手に捕まえられて、手が自由になったと思ったら、ぎゅっとされていた。
ぎゅっとされて、慌てて離れる——勢い余ってしまった、と自分の行動に焦った矢代の顔が妙にかわいらしかった。
そして、矢代は顔を赤くしたままで私の手を、今度は指だけじゃなくて全部を握った。
「戻れないし、取り消しもできない——確かに。でもやっぱりやり直したい。失敗してたんだ、はるのことどうやって位置付けるか。お前は誰とも違うんだと思う、俺には。それを表現するのに、好きだって言葉が必要なんだってようやくわかったから」
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