第37話


「告ってきたのがお前の友達だからちゃんとしないとって思う? はるに同じこと言われて、お前と気まずくなるのだけは絶対にやだって慌てたり、お前が見えたからって部活サボってアイスに釣られたフリして掃除に付き合ったりする?」



近づいて来たくせに、そう言いながら矢代は私から目を逸らした。



静かになっていた心臓がもう一度騒ぎだす。



息がうまくできなくなって、また視界が歪んだ。




鼻が痛い。





奥歯も痛い。





「めっちゃいい友達だと思ってるやつがぶつかってきたって、なんかそれがよくってやり返したりしないよな、普通。わざわざ振り向く理由探したり、話したいからって日直やり直したりしねーよな」



ポロポロ涙が溢れて、きっと私はいつも以上にちゃんと女の子でいられてると思う。



「ごめん、はる。泣かせたいんじゃなくて——ちょっとゴミ拾いの後で触れないし」


「うん、わかってるよ」




私はスカートからシャツを引っ張り出してそれで顔を拭いた。



拭いたら拭いたで矢代が慌てる。




「っちょ、見えてる、腹が!」


「だって私の手も汚いから」


「だからってマジでやめろ。腹をしまえ」


「止まらないんだもん」


「はる、俺の貸すから」




矢代はそう言って、自分のシャツで私の顔をグリグリと拭った。



拭ってから、近づいたついでみたいに、ぎゅっと私の頭を抱きしめて、すぐに離した。





「……ま、間違えた、ごめん」







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