第35話
「友達だから」
トングで八つ当たりみたいに壁を叩いて矢代が言った。
「はると俺は友達だろ? 今までそうだったし、変わりたくない。俺が中学の時に告ったやつは、なんつーか、かわいいなって、毎日そうやって眺めてたいやつだった。はるとは全然違う」
また顔を赤くして、矢代がまっすぐ私を見る。
私の手はだんだん震えるのをやめて、私の脳はとても冷静になって、心臓も怖いくらい穏やかになった。
その代わりに、鼻のあたりがすごく痛くなって目の前が歪む。
やだ、泣かない。
矢代が困るだけだから、泣きたくない。
「お前が俺を——その、す、好きだって言って、そのあと今までどうやって話してたのかわかんなくなって、そういうのがやだったんだよ。はるがずっと寝てたって、前は普通に起こせたのにそれもできなくなって嫌だった。もう全部が難しくなった。俺はそれがキツイ」
その言葉をしっかりと受け止めて、矢代は私を本当に友達として好きでいてくれるんだと、そうやって飲み込んだ。
飲み込んだけど、消化不良。
私が口を開こうとしたら、矢代は不満そうな顔をして頭を振った。
「だからちょっと黙ってろって」
顔が赤いままの矢代は、額をボリボリ掻いた。
「どうしたいかって聞かれたら、戻りたい。こうなる前に戻ってやり直したい、全部」
もう我慢できなくなって、私の目からは涙が溢れてしまった。
歪む視界の合間に、真っ赤な顔でぎゅっと口を結ぶ矢代が見えた。
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