第34話


矢代は野球部の部室がある場所まで来ると、その近くにあるネットの隙間から中へ入り、ビニール袋をいっぱいにして戻って来た。



私はそのどっさり重くなったビニール袋をぶら下げて、矢代はトングで塀を叩きながら裏門へ向かう。



そこから中へ入れば体育館前に直行できる。



私はその裏門が見えて来たあたりで、矢代には気がつかれないように深く息を吸って、静かに全部を吐き出した。



吐き出して、「ねえ」と矢代に声をかけた。



目の前がくらくらしたけど、気のせいだって言い聞かせる。




「……ごめん、やっぱできないかも」




矢代が私を見たのがわかったけど、私は前を向いたまま矢代を見なかった。



ゴミ袋を持って言うことじゃないってわかってるけど、2人きりで話せるチャンスってそうそうない。


私には矢代がそうしたみたいに、矢代を呼び出して話す勇気もないし。



「私には一時停止、できないかも。できない。だって本当はずっとできてないの。朝のラインの時はできたと思ったけど、矢代の顔見たらやっぱり止まれなかった」



ドキドキしすぎて爆発しそうな心臓を無視して、手がちょっと震えてるのも無視して、ゴクリと唾を飲む。



ちゃんと振って欲しくて告白するっていうのもおかしな話だけど、そうしなきゃ私はいつまでもずっと誤魔化してなきゃいけない。




一時停止、一時停止って、呪文みたいに唱えながら矢代のこと考えたくないから。





「一時停止は嘘だった。やっぱりこれは、延長戦——」


「ちょっと黙れ」




低い声とため息。




私は思わずゴミ袋を落として立ち止まった。






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