第23話


横顔のまま、視線を私とは反対方向へ向けて、なんだか不貞腐れたように矢代が言った。



「だから、話したかったんだって」


「どこにいたの? 気づかなかった」


「隠れた」


「なんで?」


「玉っちが何言うか想像したら気まずいじゃん」


「よろこんだだけだよ。玉っち、矢代と一緒に帰りたかったみたいだもん。さびしんぼだからって自分で言ってたし」


「ああ、マジであいつダメなんだよな、ぼっち」


「じゃ、あれほんとなんだ? 1人になるともう誰もしゃべってくれない気がするとか」


「玉っちから来る真夜中の着信とかやばいんだって」


「あんなアホなのに?」


「アホだからじゃん?」


「ちょっと、助けてやんなよ友達なんだから」


「そう、そのことでマジ笑ったんだけど、ヨシが日曜日に玉っちと——」



おかしそうに笑いながらそこまで言って、矢代は大きなビー玉を飲み込んだみたいな顔をした。



「——そうじゃなくて、だから違うって」




はははっと、私はとぼけて笑った。




「うん、わかった」


「は?」


「わかったよ。矢代の言いたいこと、おおまかにわかったから。なんかフェアじゃないのも気がついてる。だからさ、一時停止ね」



私が矢代の顔を覗き込んで言うと、矢代はぽかんとして私の目を眺めた。



目が合うのがどうとかじゃなくて、こうやって何でもないことを話して笑うのが好きだったんだった。



それがいつもの楽しみだったのに、壊したのは私自身だ。



恐怖に負けて。



生理痛に負けて。




矢代が好きで、ただそれだけで身動き取れなかったはずなのに。



取り消しは無理だけど、一時停止ならできそう。






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