第17話


一心不乱に家に帰って、早めに飲んだ薬がやっと効いてくれたせいでうとうとしたんだと思う。



何かが震える音で目が覚めた。



ベッドの上ではなかった。



リビングで、スマホを握って寝てしまったみたいだった。



床の上にお気に入りの大きなクッションに包まれて丸くなって眠っていて、頭の上でその音がした。



手を伸ばしてスマホを探して、急がない私を根気強く待つように、その着信は終わらない。



そして、画面を見て脳みそが揺れた。



矢代、だった。




私はクラクラしながら起き上がって、着信があったことを告げるそのメッセージを疑いながら眺めた。



嬉しいとかいう前に、感じたのは恐怖。



そして、その恐怖を感じながら、嬉しい気持ちを完全にはしまえなかった。



メッセージのやり取りはしたことがあるけど、電話なんてない。



少なくとも今、それがどんな悲惨な内容だとしても、矢代は私と話したいのだと思うと拒否できなかった。




こんなストーカーみたいな気持ちはもう終わりにするから、と誰に言うでもなく心の中で呟く。




声が聞きたい。




矢代と話したい。




お腹が痛くて辛くて、もうおしまいだぞと線を引かれるのであっても、最後に耳元で矢代の声が聞けたなら、もういいや。



はるって、できれば矢代の言い方で私を呼んで、それで終わりの幕を引いてくれたらそれでいい。



そんな私は愚かなんだろうか。




愚かだってなんだって、こんな私も、実は覚悟をきちんと持っている。






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