第10話


何を食べても味がしなくて、お弁当は半分以上残してしまった。



朝、矢代が私を振り返って以来、私は矢代の顔を見ていない。



こんな最低な状況を説明する気にもなれなくて、アズとカノコには何も言えなかった。



今日は誘われるままサキちゃんとお昼を食べ、首が痛くなるほどずっと下を向いて過ごした。



そして私は世界の終わりが来るような気分で、帰りのホームルームを終えた。



「ちゃんと日誌書けよ」



背後でそんな声がして、心臓と一緒に私も飛び上がる。



恐る恐る振り返ると、矢代が掃除用具のロッカーを整理していた。



それも日直の仕事だ。



「……や、矢代が書いてよ」



消え入りそうになりながら、それでも頑張って言ってみる。




すると矢代は、「は?」と悪態をつきながら私の前の席に座った。



「昨日も言っただろ。お前のが字が上手いんだから、お前が書け」


「わかったけど——わかったから、じゃあ、矢代は戸締りして先帰って。私は日誌出してから帰るから」


「それでテンツクに疑われて、俺だけまた日直やり直しとかになりそうだからやだね。あいつしつこいじゃん」


「矢代は戸締り確認してますって、ちゃんと言う」


「いーから、書け!」



矢代の人差し指が日誌をガンガンつついた。



その人差し指に心臓を刺されているかのように胸が痛い。



昨日みたいに書き殴りはしないけど、できる限り早くシャーペンを動かして、なるべく息を吸い込まないように細く空気を吐き出した。




泣きたい。




でも、まだ泣けない。






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