第11話


私の気も知らないで、暢気な担任はへらっと笑いながら日誌を受け取った。



「そういえば、柏原は掲示係だっけ?」


「何の係もやってませんけど」



仏頂面だったんだと思う。



矢代が私の顔を覗いて「ブスになってるぞ」と言った。



「元からですから! わかってますから!」



そっぽを向いてそう言うと、担任がまたへらっと笑った。



「まあまあ、そう怒るなよ。じゃあ、ついでに化学準備室にこれ持っていって、施錠して解散な。柏原は丁寧だもんなぁ、先生助かるなぁ」


「え、ついでってなんのついで?」



本来ならムッとする押しつけ残業だ。



でも、今はちょっと助かったと思った。



だって、私はこのファイル数冊を化学準備室へ運ばなきゃいけないわけで、そして施錠してまた鍵を先生に返して、それで下校する。



その用事がなかったら、矢代と一緒に帰らなきゃいけなくなる——矢代がまたよくわかんないバカな子とマックへ行く約束をしていない限りは。



私は手のひらを先生に突き出した。




「パシリですよ、先生。純粋な女子生徒を甘い言葉で誘惑してそそのかしたなんて、そんなの教育委員会に訴えたらめっちゃ大事になって騒がれるんだから。ご褒美、絶対にくれなきゃやだ」


「もー、最近の女子高生はすぐそうやって大人を脅す!」



先生はそう言って机の引き出しを開けて、まんまるのチョコレートの包み紙を私の手のひらに乗せた。



「俺のお楽しみ、最後のひとつなんだから大事に食えよ」


「きゃー! 前から思ってたけど、先生と私のお菓子の好みバッチリ合うよね!」



すぐさまその包み紙を開く私の横で、矢代がため息を吐いた。



「何度も乗せられてんじゃねーよ。断れ!」






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