第3話


私たちはたしかに同盟を結んでいたけれど、それは情報の共有だけであって、ライバル。


普通の女の子たちがするような恋バナなんて皆無。


話題にはまるで色気がない。


お互いを励まし合うこともない。



1年のなんとかって子が矢代に憧れているらしい、とか。


元々そんな要素なんかなくて、好きになるのは私たちぐらいだったのに、とか。


急に名前が出るようになったのは、クラスに目立つ男の子が増えたせいじゃないか——矢代ならいけそう的な?



少しでも遠慮すればすぐに引きずり下ろされる。



いつでもお互いを足蹴にできる、と堂々と宣言していたくらいの気持ちよさ。



抜け駆けとかなんとか、そういうのは当然で、お互いに応援することなんてありえない。



それでよかったし、面と向かってずけずけと好き勝手言えるところも気に入ってる、私は。



そんな間柄だから、カノコが動いていたことも知らなかった。



アズもカノコも、私がただ1人矢代と同じクラスなのを利用して、私のところへやって来ては矢代と話すことを目的とするくらいの強かさを持っていた。



アズはもう矢代と話せなくても、ただ見るだけと私のところへやって来た。


矢代はアズを確認すると教室からいなくなる。



アズのいう『矢代の優しさ』を私とカノコは一緒に見ているわけで、それが私とカノコの勇気をすり減らしているはずだった。



少なくとも私はそう感じていた。




「晴海」



私の名前を呼んで教室へ入って来たカノコを見た矢代は、さっきまでこちらに向けていた体の向きをすっと変えて、席を立ってしまった。



矢代の席は私の斜め前。



さっき振り返り、たしかに私を見て「お前さ」と、何か話し出そうとしたところだった。



私は驚いて、ただ隣の席に腰掛けたカノコを呆然と見つめるしかできなかった。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る