第6話 2次審査
映宝からマスコミに対してラブリーガール・オーディション審査の進行状況について発表があった。結希たち参加者にとっても状況はこの発表で初めて知る。
今回のラブリーガールへの応募総数は3万55人。うち書類審査を通過して面接に参加したのが1千人と言うことだった。
1次審査でいったい何人に絞られたのか、その発表はまだないが、2次、3次を経てファイナリストとなるのは5人である。1次審査を通過した結希だったが、まだ先は果てしなく遠い。
ただ、面接の時と違って結希には決意があった。自分がどこまで通用するのか確かめたいとも思っていた。
しばらくして結希にあらためて書面による合格通知と2次審査のスケジュールが届いた。
そのすぐ翌日だった。宮島恵子の元に重森久志から電話が来た。
「ああ、やっぱり恵子さんの娘さんだったのか。血は争えないね」
「先生・・・。審査員をされていたんですか?」
「ああ。小山内に頼まれてやむを得ず。だが、娘さんを残したことで2次以降は降りることにしたよ」
そういう重森の声を恵子は黙って聞いていたが、ようやく
「先生らしいです・・・と申し上げたいところですが、うちの子のためだけではないんでしょう?」
そう切り返した。
「どうしてそう思う?」
「結希は無名も無名、私の名前を出したところで覚えている人もいないでしょう。気にするほどの障害ではないと思いますが・・・」
「相変わらず鋭いね、恵子さんは。実は小山内の孫娘も参加していてね。まあ会社は特別待遇はしないだろうけど、個人的な関係のある私はちょっとね。誤解をされると小山内にも済まんだろ」
重森は正直に追加の理由を恵子に話した。
「小山内様のお孫さんが・・・。結希がどこまでやれるのか楽しみだわ」
「時代は繰り返すということか、それとも因果は巡ると言うべきかな」
「因果だなんて。私は楽しかったですよ。後悔もありはしません」
こうして電話は切れたのだが、電話があったことを恵子は結希に話さなかった。重森や小山内との関係についても口を
2次審査の会場は映宝が運営する巨大なスタジオだった。大きな会議室に集められたのは数十人の少女たち。1次審査の合格者たちである。
3日間を掛けて残った100人の中から10人前後が選ばれる。
2次審査の課題は朗読である。自分で好きな本を選び、その中から1ページを読むと言うわけだ。選ぶ本もセンスが問われるだろうし、本によっては台詞をしゃべることにもなる。何を選ぶか、誰しも迷うところだ。
結希も大いに迷った。迷った末に研一に相談したところ、青嵐歌劇団の何かにすればいんじゃね?という回答。
「無くはないけど、やっぱりないなあ」
と結希は答えた。また母は、『伊豆の踊子』と『潮騒』を上げてきた。
「川端に三島・・・。それはどうなの?」
首を傾げる結希に母は言った。
「映宝で昔映画化したわ。映宝文芸作品シリーズ。そうそう『野菊の墓』もね」
「そういうこと? あざとい」
結希は母の提案を即座に却下した。もちろん笑いながら。そして結希の選んだ1冊とは・・・。
結希に指定されていたのは最後の3日目だった。重森の押しもあり有望選抜グループにいたのだが、結希には知る由もない。
「なに!?シェークスピア!?」
審査員のひとり映宝制作部長が声を上げた。92番の小山内キクが始めた朗読はウィリアム・シェークスピアの邦訳福田版『ロミオとジュリエット』だった。
しかも朗読と言いながらキクはまるで舞台上で演じるように台詞を話している。手にした本は今野辺で摘んできた花束に見えた。ジュリエットは家族の仇敵ロミオへの思いを観客に切々と語りかける。
ジュリエットの独白を含む部分だった。
「もはや、朗読の範囲を超えている。これは芝居だ」
制作部長が再び叫んだ。
衣装もカツラも小道具も全て着けた演劇に見える。スタジオは舞台に変貌していた。小山内キクの圧倒的な演技力、いや、まだ演技ではないのだ。キクはただ朗読をしているに過ぎない。
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