雨空

自分の上を通り過ぎていく

紙の束たちを

遮ることは出来なくて

後ろから返される

プリント1枚

その悲しさを

ヒソヒソと笑う声

残酷に木霊する


集団があってはじめて孤独は生まれるのだと

知った6月の雨

濡れて帰れたら、気持ちよく

泣くこともできただろうけど

強情な私は、

小雨の笑い声に

耳を塞ぐこともできず

そっと過ぎ去ってほしいと

握る拳の爪は痛く


素知らぬ誰かから見れば

一時いっときの瞬き、

私の悩みを無下に笑うだろうか

私にとってはどうしようもない現実

大きな空気の外を遊泳する

滲む視界

無限の時間ときに突き放された

宇宙を漂う

ただ一人


いつかは懐かしく

遠き日になると

それだけが救いになるのだと

祈り続け、夢見る日々に

未だ到達できず


傷を無いものとして扱った

その代償は、まだ癒えず

膿を吐き出し続け

泣くことすらもできない

化膿していくものを思うたびに

「ごめん」と孤独だった自分に謝る


素直に助けを求めることが出来たなら

ここまで引きずることもなかっただろう

差し伸べられた優しさに

惨めさをより感じ

思わず零れた涙たちは

今思えば、救われていて

堰き止めてしまった涙は

行き場を失い

膿へと変わっていった


向き合うことを恐れたのは

過去も今も変わらず

未来もきっと怖いまま

手を差し伸べてくれたその人の

優しささえも、忘れ去り

強さを誤解し、立ち尽くした日々は

黒歴史に成り果てた


楽しかった日々の

影に落とした、黒い渦

飲み込まれる恐ろしさに

綺麗事の船は消えてく

あの降りしきる雨の日々は

無駄ではなかったのだと

教訓にするには浅すぎて

嘆き悲しむには経ちすぎた


生きることは、傷を得ること

いつかは塞がるその傷は

後にできた傷よりも

治りが一段、マイペース

ゆったりとした足取りは

流れる景色を豊かにする

得てしまった生傷を

愛おしく思える時が来たなら

ようやく治ることができるのだろう


雨は別に嫌いじゃない

私のかわりに泣いてくれる

傘も別に嫌いじゃない

だけど、本当は濡れていたい

この目で確かめたい

雲の向こうに青空があることを





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る