　桜が散ってから、おおよそひと月が経った。我らが山田学園の文化祭、『山田祭』が行われる日が近づいてきた。折角だから、この機会に語っておこうと思う。山田学園が、なぜ、『山田』なのかを。

　これは、噂好きのばあちゃんから聞いた話なのだが、この土地に学園ができる、ずっと前のことだった。一匹の狐が、この辺りにあった小さな祠に住み付いていたんだと。その狐がどういう訳か、人間の姿に化けて、人々の願いを叶えて回ったらしい。だからそいつは、狐であるにも関わらず、大層人々に好かれていた。そのときに使っていたのが、山田権兵衛（やまだごんべえ）という名だった。それで、この辺り一帯が山田という名をよく使うようになったという訳だ。それと、ここからは俺の憶測なのだが、オト女神像の伝説は山田権兵衛の話と関連があるのではなかろうか、と。