俺の親友と幼馴染みの恋
一年生が居なくなったところでそろそろ部活に行こうと思い、茂みの中から抜け出した。部室棟に足を踏み入れて、肩がぶつかりそうなほど狭い階段を上り、大きく息を吸ってからドアノブに手を掛ける。そして、勢い良くドアを開ける。ようやく、本日の活動開始だ。
「やぁやぁみんな、今日も元気に活動しているかい?」
「陽太先輩、こんにちは。みんなって、ここには私しか居ませんけど」
彼女はもう一人の部員、
「そんな悲しいこと言うなよ。ときにゆづちゃん、今日も早速仕事だよ」
「参拝者は、どなたですか?」
「参拝者って、神社かよ」
「…」
「ゴホン。ええと、一年三組の山崎 茉莉さんだよ」
「いきなり新入生ですか。では、情報収集に参りましょう」
「あぁ。切り替え早いな」
翌日、俺たちは茉莉の後を付けて回った。というのも、まだ茉莉についての情報が全く無かったからだ。
「陽太先輩、私たち、通報されませんよね?!」
「大丈夫だと思うが。バレなければ」
「バレたらまずいんですか?どうしましょう。先輩、責任取ってくださいね」
「は?笑顔で怖いこと言うの、止めろよな」
ことが起こったのは、俺らが呑気に喋っていた、まさにそのときだった。
「「あ」」
茉莉がこちらを振り返ったのだ。目まで、ばっちりと合ってしまった。これはまずい。逃げようとして茉莉に背を向けた。だがすぐに、その必要が無かったことに気づく。なぜなら、茉莉の視線の先に居たのは俺らではなく、とある男子生徒だったのだから。その男子生徒というのは、学校中の有名人、
「という訳で我らオト研は、湊に話を付けに行くことが決定したぞ。レッツゴー」
「どういう訳なのか、存じ上げませんが。陽太先輩のことですし、また
「お、今日のゆづちゃんはノリがいいな」
「ちょっと、先輩五月蝿いです。バレてしまうではないですか」
「照れんなよ」
「照れてないです」
そして向かった先は、湊がいる三年一組。人が多くて、とてもじゃないけれど湊を見つけられそうにない。だから、力いっぱい叫んだ。
「湊ー居るかー。俺だよ俺、俺」
「陽太先輩、オレオレ詐欺感が出てしまっていますよ…」
「ははっ、確かに」
「あ、湊先輩がいらっしゃいましたよ」
俺の友人が、爽やかな笑顔を振り撒いて手を振りながら、こちらにやって来た。
「おぉ、陽太か。どうした?」
「昼飯、一緒に食おうぜ」
「いいよ。じゃあ、屋上に行こうか」
「「賛成」」
「仲いいね、お二人さん。フフッ」
湊は、俺以外に対しては爽やかイケメンなのに、なぜか俺にだけブラックなんだよなぁ。コイツ、意味深長な笑みなんか浮かべやがって。
屋上に上がると、真っ青な空が視界いっぱいに広がっていた。湊は、フェンスの近くに歩み寄り、購買で買ってきたパンを袋から取り出した。そのとき、強い風が、俺らの間を擦り抜けた。はらり。何か、湊のポケットから紙のようなものが落ちた。湊は全く気がつかずに、メロンパンを頬張っていた。そして、再び強風が吹いた。俺を釘付けにしていた、あの紙が、ゆづちゃんの足元へと飛んで行った。それを急いで拾ったゆづちゃんの動きが、ほんの一瞬、止まった。
「陽太先輩、これ…」
気になったので、俺も覗くと、それは一枚の写真だった。
「湊先輩と、茉莉さん…?」
「おそらく、そうだな」
そこに写っていたのは、手を繋ぎ、満面の笑みを浮かべている、幼稚園児と小学生くらいと思われる二人だった。顔を上げて、湊の方を見遣る。奴はまだ美味しそうに、メロンパン二個目を頬張っていた。呑気な奴め。それにしても、どういうことだろうか。湊と茉莉は、幼いころから面識があったということか。そういうことなら、話は簡単だ。
「陽太先輩…、一人で突っ走らないでくださいね…」
「だ、大丈夫だ。任せとけ」
「湊、この写真、今飛んで来て。た、たまたま見えてしまったのだが…、茉莉のことをその、す、好きなのか?」
「あぁ、うん。好き、かな」
「本当ですか?!それなら、どうしてお付き合いなさらないのですか?」
「ゴホン…、何でっていうか、君たちこそ何で急にそんなこと言いだすのかな…」
「いやぁ、その、まぁ…応援!応援したいと思ったからだ」
「私もですよ、湊先輩」
「そう、ありがとう。実はね、茉莉ちゃんとは家が隣同士で、幼馴染みなんだ。だから昔は凄く仲良しだったんだ。でも、しばらく会っていなかったから、久しぶりに会っても何を話していいか、わからなくて。顔を合わせるとなると、気まずくなってしまうんだよ」
「それなら、私たちが協力しますよ」
「あぁ、湊には幸せになってもらいたいからな。よし、じゃあさっそく俺とゆづちゃんで、茉莉を連れて来よう。湊はここで待ってろよ」
「え?あ、うん。よろしく」
湊と茉莉の写真を見つけてしまったせいで、昼飯を食い損ねた…。でも、おかげで上手くいきそうだし、良しとするか。
俺とゆづちゃんは、再び茉莉の姿を探した。屋上から順に下の階に降りて行き、ようやく、中庭の花壇で茉莉を見つけた。
「あの、茉莉さんですよね?」
「はい、そうですが。上履きの色からして、先輩ですよね。何の御用でしょうか」
「急に話しかけて、すまない。俺は三年の、陽太だ」
「私は二年の、清水結月です」
「俺たち、三年の湊と友達なんだけど。櫻井湊っていう奴のこと、知ってる?超イケメン」
「はい、知っていますよ。湊君が、どうかしたんですか?」
「ちょっと、君と話したそうにしていてね。一度、会ってもらえないかな?」
「え…。そんな急に言われても、何を話したらいいか分からない…ですよ」
「フフッ。湊と同じことを、言うんだね」
「本当に、似ていらっしゃいますねぇ」
「まぁ、君は来てくれるだけでいいから」
茉莉の返事も待たずに、湊の待つ屋上まで、茉莉の腕を引いて行った。屋上まで階段を一気に駆け上がり、勢い良くドアを押し開けた。
「茉莉ちゃん…」
「湊くん…、久しぶり」
「俺らは去るんで、後は若いお二人で」
俺とゆづちゃんは、居なくなるフリをしつつ、ドアの後ろに隠れて様子を窺っていた。
「あのさ、あのときはイジワルなこと言って、ごめんね。すぐにでも謝りたかったんだけど、茉莉と会えなくなるなんて、思わなくて。ずっと、仲直りしたくて、後悔してたんだ」
「茉莉の方こそ、ごめん。湊くんが謝ろうとしてくれていたの、知ってたんだよ。でも、意地張って、逃げるみたいに、何も言わずに引っ越しちゃった」
「そっか、良かった。じゃあさ、仲直りの印にメロンパンをあげるよ。茉莉ちゃん、昔からメロンパン好きだっただろ?」
「ありがとう」
「それとさ、俺、茉莉ちゃんのこと好きだよ。昔から。今も」
ドンッ。いきなり、閉まっていたはずのドアが開いて、四人の視線が痛いほど絡み合った。まずい。盗み聞きしていたのがバレてしまった。デジャブ…。湊の奴が突然凄いこと言うものだから、驚いて、もたれ掛かっていたドアを押してしまったようだ。今回こそは、逃げようにも逃げられなかった。行く手には湊、背後にはゆづちゃんが立ちはだかっていたのだから。
「おい、陽太。何でいるんだよ。盗み聞きとは、いい度胸だな」
「ごめんなさい。なんとかして陽太先輩を連れて行こうとしたのですが、どうしても動こうとしなくて」
「ちょっと待て、ゆづちゃん。さり気なく俺に罪を擦り付けようとするの、やめてくれないかな?確かに俺が九割くらい悪かったけどさぁ。すまんよ、湊、茉莉。それで、結局のところ茉莉の返事は?超気になるんだけど」
「陽太先輩に、全く反省の様子が見られないのですが。いくら先輩のお友達と言えども、さすがにご迷惑ですよ。さぁ、本気で帰りますよ。湊先輩、茉莉さん、お騒がせしました。失礼します」
「湊ー、後でどうなったか教えろよー」
俺は、半ば強制的に連れて行かれた。
後日、湊から連絡があり、茉莉と付き合うことになったと分かった。これで茉莉の願いが叶ったため、オト研の任務完了。湊も、長年の想いが実って、以前に増して輝かしい笑顔を振り撒くようになった。よし、今日は早く家に帰って、漫画でも読みながらゴロゴロするとしよう。
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