『オトメ♡研究同好会』の恋多き日常

天音 いのり

プロローグ

 ご存じだろうか。ここ『山田学園』には、とある伝説がある。ちょうど今、その伝説を実践しようと試みている、入学したてのほやほや一年生がやって来た。

「ねぇねぇ、A子ちゃん。ちょっと付き合ってよ」

「どこに?トイレ?」

「ち、が、う、わ、よ。決まってるじゃない、オト女神像おとめがみぞうを拝みに行くのよ」

「はあ?何それ。ていうか、名前ださ…」

「ちょっ、罰当たるよ。まぁ、ここの生徒はみんな思っているけどね。口に出しちゃいけないって、決まっているんだから。それよりA子ちゃん、オト女神像も知らずにこの学校に来たの?超有名な話じゃない」

「聞いたこともなければ、見たこともないんだけど。本当にそんなもの、あるの?」

「あるよ。まだ、見たことないけどね。ほら、早く付いて来て。多分、こっちの方にあるはずだから」

A子と茉莉まりが向かった先は、校舎裏にある部室棟の前だった。満面の笑みを浮かべて謎のポーズを取ったまま、ひっそりと佇む、何とも胡散臭そうな石造が二人を出迎えた。

「お…なんとか像って、これ?」

「オト女神像ね。なんだか、名前通り…ね」

「それで、この像を拝むと何が起こる訳?」

「なんと」

「なんと?」

「恋人ができる」

「…」

「ちょっ、絶対信じてないでしょ」

「うん。一ミリも」

「そんなに笑顔で言わないで。まぁまぁ、見てなさいよ。私が証明してあげるから」

「茉莉がそういうなら、面白そうだし。いいよ。見ていてあげる」

「どうか、この私に素敵な彼氏を恵んでください。お願いします。お願いします。お願いします」

「…本当に、こんなのでいいの?」

「多分」

がさっ、ごそっ。

「今、何か動かなかった?ほら、あの辺り」

「さぁ、狸でも通ったんじゃないの。よし、用事も済んだし、あとは効果に期待だね」

狸扱いされてしまったけれど、バレなかったから許してやろう。これでお分かりいただけただろうか、うちの学園の伝説について。追加説明をしておくと、オト女神像をつくったのは、うちの部活の先輩。そして、女神様のふりしてみんなの願いを叶えているのが、俺たち『オトメ♡研究同好会』略してオト研という訳だ。

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