ゲームその4 『白雪姫と毒リンゴ』第4話
二人ともうなずき、それからカードを手に取りました。ワオンの目が大きく見開かれます。手札には、ふさふさのひげを生やし、愛嬌のある顔をした小人カードが2枚と、ドクロのシミがついた、真っ赤な毒リンゴカードが1枚あったのです。あわあわしながらルージュを、そして大臣へと目を向けますが、二人ともまったく表情を変えずに、じっと自分の手札に目をやっています。と、大臣がワオンに視線を向けました。
「さぁ、まずはお前の番だぞ。カードを1枚ふせておくんだ」
大臣にうながされて、ワオンは自分の手札をまじまじと見つめます。
――そうだった、確か最初にこの、毒リンゴカードを出すんだった――
「ふーっ」と大きく息をはき、ワオンはふるえる手で毒リンゴカードをふせて置きました。ワオンの動きを受けて、大臣も手早くカードをテーブルにふせて置きます。最後はルージュです。少し考えこむような様子を見せて、それからルージュもカードを1枚テーブルにふせました。
「さぁ、これで準備が整った。あとはもう一度サイコロを投げて、親を、つまりカードを開く役を決めるんだ」
再び大臣から、サイコロを投げていきます。その結果、ワオンが親になったのです。
「それじゃあオオカミ、お前がその手で、わしとそこの小娘のカードを開くんだ」
「ちょっと、わたしにはルージュって名前があるのよ。ワオンさんだってそうよ。わたしたちのこと、仲間だと思ってるんなら、ちゃんと名前で呼んでほしいわ」
ルージュがじろっとルドルフ大臣をにらみつけます。大臣は眉間にしわを寄せてルージュをにらみかえします。
「誰が仲間だ! お前らなどただのイケ……あぁ、いや、悪かった。えーっと、ルージュさん、でいいのかな?」
なにかをいいかけて、あわてて大臣は首をふりました。名前を確認されたルージュは、満足そうにほほえみうなずきました。
「それではワオンくん、わしとルージュさんのカードを開きたまえ」
大臣にいわれて、ワオンはふるえる手でまずは大臣のカードを開きました。雪のように白い肌に、ぷっくりとした赤いくちびる、ほんのりと色づいたほおに、目が覚めるような黒い髪をした美少女が描かれています。白雪姫カードでした。ワオンは思わずガッツポーズしましたが、やがて「あっ」と声をあげます。ちらりとルージュを見ると、軽くほほえんでワオンを見かえすのでした。
「さぁ、それじゃあこむ……ルージュさんのカードを開くんだ!」
ワオンはぎゅうっと目をつぶってから、恐る恐るルージュのカードを開きます。大臣が歓声をあげました。
「よしっ! これでわしも黒魔女様に……って、なんじゃ、小人のカードじゃないか!」
歓声はみるみるうちに怒声へと変わっていきます。大臣は「ぐううっ!」とうめき声をあげて、それからルージュに食ってかかります。
「なにをやっとるんじゃ! 最初に打ち合わせしただろ? なぜその通りにカードを出さないのか!」
「あら、もちろんそうしようと思ったわよ。でも、わたしの手札は全部小人だったもの。毒リンゴカードを出したくても、出せなかったのよ」
すました顔でルージュがいいます。ほおをピクピクッと引きつらせて、苦虫をかみつぶしたような顔になるルドルフ大臣でしたが、突然、「ピシピシッ」といやな音が封印の間に鳴り響いたのです。ハッと大臣がいすから立ち上がり、急いでうしろをふりかえります。そして、「ぐびゃっ!」と、今度はかみつぶされた苦虫のような声をあげたのです。
「ひっ、ひぃぃっ! くくく、黒魔女様の像にひびが……!」
これには大臣だけでなく、ワオンもあわてた様子で口をあわあわさせています。ただ一人、ルージュだけは、しっかり大臣を見すえているのでした。
「なんてことだ、このままでは黒魔女様が復活できなく……じゃない、黒魔女様、いや、黒魔女の封印が解けてしまうではないか! おい、オオカミ! お前はちゃんと毒リンゴカードを出したんだろうな!」
「もちろんだよ、おいら、ちゃんといわれた通りにしたよ! でも、サイコロでおいらがめくる役になっちゃったから、それで……」
ショックを受けたようにうなだれるワオンを、ルドルフ大臣はまだギリギリと、歯ぎしりしながらにらみつけていましたが、やがてドカッといすにすわり直したのです。
「チッ……! とにかく次も、ちゃんと打ち合わせした通りにカードを出すんだぞ! 白雪姫と小人が三回出会ったら、永遠の命も手に入らなくなるんだからな!」
「えっ、永遠の命?」
またしてもルージュに問いかけられて、大臣はゴホゴホンッと激しくせきこんだのです。何度か息を整えてから、ブンブンッと首を横にふりました。
「なんでもない、口がすべっただけだ! それより次だ、次!」
ルドルフ大臣がさけぶと同時に、残っていたカードが全て「ボワッ」と音を立てて燃えだしたのです。「うひゃあっ!」と悲鳴を上げるワオンでしたが、不思議とその緑色の炎は熱くありません。口をぱっくり開けて、炎を見つめるワオンでしたが、やがて緑色の炎は消え、その中から再びカードが3枚ずつ現れたのです。
「さぁ、それじゃあ今度こそいわれた通りに出すんだぞ! わかったな!」
念押ししてくる大臣に、ルージュは笑顔でうなずきました。しかし、その目は油断なく大臣を見すえています。
――やっぱり、絶対にあの大臣怪しいわ! ……おとぎの森には、あんまりおとぎ連合国の、王宮のうわさは入ってこないけど……。それでも今の大臣に、良くないうわさが多いってことくらいは知ってるわ。てことは、まさか――
「おい、小娘、お前の番だぞ」
大臣がサイコロをルージュにほうり投げます。ルージュは冷たい笑みを浮かべて、大臣を見すえました。「ぐっ」と言葉につまる大臣を無視して、サイコロをふります。その結果、今回はルドルフ大臣→ルージュ→ワオンの順でカードを出していくことになりました。
「チッ、まぁいい、とにかく次だ! 次こそしっかり打ち合わせした通りに出すんだぞ!」
エラそうにふんぞり返る大臣でしたが、ルージュの顔からスーッと表情が消えていきます。それを見て、ワオンは顔をほころばせました。
――てことは、ルージュちゃんは白雪姫か毒リンゴのカードを持っているってことだね。ルージュちゃん、自分じゃ気づいてないみたいだけど、勝負どころになると表情を消して、ポーカーフェイスになるんだ――
ワオンはチラッと自分の手札を見ます。今回は小人カードが3枚手札にあります。つまり、ルージュとルドルフ大臣の手札には、白雪姫カードと毒リンゴカードがあるということです。もちろん、どちらがどちらかはわかりませんが……。
――どっちにしても、次のサイコロでおいらが一番大きい目を出せば、黒魔女を封印できるんだ、がんばるぞ――
大臣がカードをふせて、それを受けてルージュもカードをふせました。ワオンも小人カードを1枚ふせます。そして……運命のサイコロです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます