ゲームその4 『白雪姫と毒リンゴ』第3話

「……以上だ。とりあえず質問はなかったか?」


 ルドルフ大臣に聞かれて、ワオンもルージュも首を横にふりました。しかし、ルージュは考えこむように目をふせたのです。


 ――アイコンタクトは許されるっていっても、わたしたちと大臣は、初対面なんだし、それで意思疎通なんてできないわ。ワオンさんとなら、いつもゲームしてるからできるけど。それなのに、どうして大臣は自分の部下とか、そういうよく知っていて、アイコンタクトだってできるような人たちじゃなくて、わたしたちを封印の儀式に参加させようとしているのかしら――


 ルドルフ大臣を油断なく見すえながら、ルージュはさらに考えます。


 ――もしかして、封印の間の存在が、他の兵士たちとかにも秘密だからかしら? でも、そんなところにわたしたちを連れていったり、黒魔女が復活するかもしれない大事な儀式に参加させたりするかしら――


「どうした、ずいぶんと考えこんでいるみたいだが?」


 大臣に話しかけられても、ルージュは少しもあわてた様子も見せず、かすかにほほえんで首をかしげました。


「そんなことありませんわ。ただ、ルールをしっかり確認しておかないとと思って」

「ふん、そうか。だがこれは表向きのルールだ。そしてここからが最も大切なことなのだが、実はこのゲーム、事前にどのカードをどのタイミングで出しておくか、各々相談していていいのだよ。つまり、白雪姫カードと毒リンゴカードを一番最初に出すと、みんなで決めておいていいということだ」


 これにはさすがのルージュも驚いた様子で、わずかに目が大きくなります。ワオンにいたっては、口をぱっくり開けて、まん丸い目をまたたかせて固まっていました。


「わかったか? だからこそわしは、お前たちをゲームの参加者として推薦したのだ。お前たちの無実を証明してやろうという、わしのいきな計らいだ。だからお前たちも、ちゃんと白雪姫カードと毒リンゴカードを一番最初に出すんだぞ」


 ルドルフ大臣の言葉に、ワオンがコクコクと何度もうなずきます。生贄にならずに助かるとわかったからでしょう、その顔はホッとしたようにゆるんでいます。


 ――もう、ワオンさんったら……。もしそうだとしても、やっぱりおかしいわ。それならなおさらわたしたちじゃなくて、気心の知れた部下とかと儀式に臨むはずだもの。もちろんわたしたちは違うけど、もし万が一、わたしたちが黒魔女の手下だったとしたら、大変なことになるじゃないの――


「さぁ、着いたぞ。黒魔女封印の間だ」


 ルドルフ大臣にいわれて、ルージュは前を向きました。金属のがっちりしたとびらに、巨大な錠前がつけられています。大臣がポケットから、宝石のついた金の鍵を取り出しました。それを鍵穴にさして、なにかぶつぶつと呪文を唱えます。錠前がガチャンッと重苦しい音とともに外れて、それからギギギギギ……と、金属のこすれる音が耳を襲います。


「よし、じゃあ入れ」


 大臣が二人をうながします。恐る恐る中に入ると、真っ先に目についたのは等身大の女性の石像でした。全身が黒く塗られています。あれが黒魔女の像なのでしょう。そして封印の間の真ん中には、正三角形のテーブルがあり、いすが三つ置かれていました。壁にはろうそくもなにもないのに、ぼんやりと緑色の炎がともっています。


「すごいなぁ、まるで本当に魔法が使われているみたいだ」

「なにをいっておる。魔法が使われているに決まっているだろう。この封印の間は、黒魔女様の魔力によって常に明かりがともされているのだ」

「黒魔女様?」


 ルージュがぴくりとまゆをあげます。ルドルフ大臣はコホンッとせきばらいしてから、二人を中央のいすへすわらせました。


「さぁ、それじゃあ邪魔が入る前に……じゃない、黒魔女様が目覚める前に、さっさと封印してしまおう」


 早口になっているルドルフ大臣に、ルージュは完全に疑いの目を向けています。


「ひとまずは、誰からカードを出していくか決めようか」


 ルドルフ大臣が席に着いたとたんに、テーブルの真ん中にフッと黒いサイコロが現れたのです。「うわっ!」と声をあげるワオンに、大臣は自慢げにいいました。


「これも黒魔女様の魔力だ。さぁ、それじゃあ出た目が一番大きい者からスタートしよう」


 大臣が黒いサイコロをふりました。ワオンとルージュもふった結果、ワオン→大臣→ルージュの順でカードを出していくことになりました。


「それじゃあ今からゲームが始まるが、ここからはお互いに情報を教え合ったりはできない。もしヒントを出したりすれば、黒魔女様から恐ろしい罰を受けることになるぞ」


 ルドルフ大臣の言葉を聞いて、ワオンはごくりとつばを飲みこみました。ルージュは努めて冷静に、大臣の表情を観察しています。と、突然テーブルに緑色の炎が燃えあがったのです。さすがのルージュも驚き、「きゃっ!」と声をあげます。


「心配するな。黒魔女様が、最初のカードを我らに授けられたのだ。……いいか、それじゃあ打合せ通りにするぞ」


 大臣がルージュをじろりと見ます。ルージュは軽くほほえんだままうなずきました。ワオンもドキドキしながら緑色の炎を見つめています。と、炎はゆらゆらとゆらめいて消え、三人の前にカードが3枚ずつ、炎の中から現れたのです。闇に溶けてしまいそうな、真っ黒なカードでした。


「それじゃあそれぞれカードを取るんだ。くれぐれもなにを持っているか口にするなよ」

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