ゲームその3 『お菓子の家を作ろう』第1話
「それで、いったい相談ってなんだい?」
ブランが連れてきた、ふわふわした赤毛に、澄んだ青い目をした男の子へ、ワオンがにこりと笑いかけました。ここは『ワオンのおとぎボドゲカフェ』です。オオカミのワオンが、おとぎの森に開いたお店ですが、普通のカフェとは違います。ボドゲカフェとは、カードゲームやボードゲームをしながら、おいしいお茶やケーキを楽しむ、とっても素敵なカフェなのです。
「大丈夫だよ、ハンス。ワオンさんはオオカミだけど、悪いオオカミじゃないんだ。それはぼくが保証するよ」
得意満面にドンッと胸をたたくブランを、双子の姉のルージュがジトッとした目で見つめます。
「あら、ついこの間まで、ワオンさんを悪いオオカミだって思ってたのは、どこの誰だったかしら?」
ルージュのツッコミを聞いて、ブランはうっと顔をそむけました。ワオンがアハハと笑います。
「まぁ、とにかくケーキとお茶でも楽しみながら、ゆっくり話してよ。もちろんおいらじゃどうしようもないことだったら、力になれないかもしれないけど、それでもできる限りのことはするよ」
ワオンに見られて、赤毛の男の子、ハンスは顔をあげました。それからこっくりうなずきます。
「うん、ありがとう。ブランとルージュちゃんは知ってると思うけど、相談っていうのはおれの妹についてなんだ」
「グレーテちゃんのこと?」
ルージュに聞かれて、ハンスはもう一度こっくりしました。ワオンは首をかしげます。
「その、グレーテちゃんかな? その子がどうかしたのかい?」
「あぁ、そうか、ワオンさんはグレーテちゃんのこと、というかハンスたちのことを知らないんだったな。それじゃあぼくが先に説明するよ」
目をぱちくりさせるワオンに、ブランが得意げに説明します。
「グレーテちゃんとハンスは、兄妹なんだけど、おとぎの森の中でもすごい力を持った一族なのさ」
もったいぶったいいかたをするハンスに、ワオンはロールケーキを切っていたフォークの動きを止めました。
「すごい力って、なんだい?」
「ワオンは、『ヘンゼルとグレーテル』って知ってるかい?」
唐突に聞かれて、ワオンはなにがなんだかわからない様子でうなずきます。
「おとぎ話の『ヘンゼルとグレーテル』かい? お菓子の家が出てくるお話だろう? うん、知っているよ」
「それがさ、実はおとぎ話じゃないんだよ。ハンスとグレーテちゃんは、その『ヘンゼルとグレーテル』の、グレーテルの子孫なんだよ」
ブランの言葉に、ワオンはさらにまん丸い目をぱちくりさせます。
「グレーテルの? へぇ、それはすごい、おとぎ話だとばかり思ってたけど、あの話は本当だったんだね」
ワオンに見つめられて、ハンスは照れたように笑いました。
「とはいっても、おれは別になんの力も持っていないんだけどね。持っているのは、妹のグレーテのほうなんだよ。おれたちの一族は、代々女の子にだけ、不思議な力が宿るっていわれているんだ。……魔女の力がね」
「えっ、魔女の?」
びっくりしすぎたのか、ワオンの口がパカッと開いたままになってしまいました。ルージュがくすくす笑います。
「ワオンさんったら、びっくりしすぎよ。あ、でも心配しないでね、グレーテちゃんたちは、悪い黒魔女とは違って、暗黒の魔法を使ったりしないわよ」
心配そうな顔をするワオンに、ルージュが安心させるような口調でいいます。おとぎの森の住人たちはもちろん、おとぎ連合国の国民たちはみんな、ずっと昔に悪いことばかりしていた黒魔女を、すごく怖がっていたのです。ルージュはさらに説明します。
「おとぎの森にもね、魔法を使える人たちはいるのよ。その人たちを、魔法使いとか、魔女っていうんだけど、黒魔女とは違うの。……もちろんグレーテちゃんは、とっても優しい女の子よ」
「そうだったんだ。でも、どうしてグレーテちゃんだけで、ハンス君には魔法の力が宿っていないんだい?」
「それはね、二人のご先祖様のうち、グレーテル、つまり女の子のほうが、魔女が作ったお菓子の家のお菓子をたくさん食べたからよ。お菓子の家のお菓子には、魔力が宿っていた。それを食べたから、グレーテルにも魔力が宿ったらしいわ。それでグレーテルの子供たちも、その魔力を受け継いだんだけど、グレーテルが女の子だったから、代々女の子だけに魔力が宿るようになったんですって」
ルージュの説明に、ハンスは恥ずかしそうにうなずきました。
「いったいどんな魔力が宿っているんだい?」
興味しんしんといった様子のワオンに、ハンスもはにかみながら説明します。
「そうだね、いろいろあるんだけど、グレーテの場合は、見えないものを見ることができたり、他の人の心の中をのぞけたり、ものを別のものに変身させたりすることもできるよ」
「すごい……! 本当に魔法が使えるんだね」
あこがれのまなざしを向けてくるワオンに、なぜかハンスは悲しそうに首を横にふったのです。
「それが、いいことばかりじゃないんだ。グレーテはまだ七歳なんだけど、そんなめちゃくちゃな力を持っているから、お友達もなかなかできなくって、それで困っているんだ。それにグレーテは力のせいで、ゲームとかして遊んでも全然楽しめないんだよ」
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