ゲームその3 『お菓子の家を作ろう』第2話
「ゲームで遊んでも楽しめない? どうして?」
これにはワオンだけでなく、ルージュとブランも心配そうな顔でハンスを見ます。ハンスはかばんから、古ぼけたトランプを取り出したのです。
「うちにも、トランプくらいならあるんだ。それで、グレーテがお友達と遊べないから、かわりにぼくがトランプとかで遊んであげるんだけど、グレーテはおれのカードを全部透視できちゃうから、ゲームにならないのさ。ポーカーとかも全然面白くないっていわれちゃって」
「なるほど、それでグレーテちゃんを楽しませる、なにか面白いボードゲームがないか相談しに来たんだね?」
ワオンが納得したように首をたてにふりました。ハンスも悲しそうにうつむきます。
「ゲーム以外の遊びも、たとえばおままごととかおはじきとかも、グレーテは面白いと思わないみたいだし、鬼ごっことかかけっことか、そういう遊びは苦手なんだ。グレーテは、魔女の力を持っているかわりに、すごくからだが弱いんだ。だからいつも退屈そうで、おれもグレーテがかわいそうで……。ワオンさん、なにかグレーテも楽しめる、面白いボードゲームはないのかな?」
ハンスの質問に、ルージュは難しい顔で首を横にふりました。
「相手の手札とかが全部わかっちゃうなら、カードゲームはあんまり楽しめそうにないわね。ボードゲームも、かけひきをするものはやっぱり相手の考えていることがわかっちゃうから、楽しめないわ。難しいわねぇ……」
ですが、ワオンはふむふむと考えこんでから、にこりと笑ってうなずいたのです。ハンスが驚いて顔をあげます。
「もしかして、そんなボードゲームがあるんですか?」
「うん、ちょうどピッタリなボードゲームがあるよ。あ、でも、カードを透視できるっていってたけど、それはカード自体を見なくても、絵柄がわかるってことかな?」
ワオンに聞かれて、ハンスは困ったように首をかしげました。
「えっ? うーん、とりあえずなんていうのかな、カードが透けて見えたりするらしいんだ。だからおれがカードを持っていたら、そのカードはなんのカードかわかるみたいだよ。だけど、たとえばポーカーで山札のカードを全部いい当てるってことは、難しいみたいだね。山札の一番上のカードだけしか絵柄はわからないみたいだよ」
「なるほど、じゃあたとえば、おいらがカードの束を持っていて、そのたびにカードをめくったりすれば、グレーテちゃんもカードを透視したりはできないってことだね?」
ハンスはとまどいながらも首をたてにふりました。
「うん。でも、いったいどんなゲームなんですか?」
「ま、それはあとでのお楽しみさ。じゃあ今度はグレーテちゃんといっしょにおいでよ。おいらも準備しておくからさ。あ、もちろんルージュちゃんとブラン君も来るだろう?」
ワオンの言葉に、ルージュもブランも元気よく返事するのでした。
「もちろんだわ」
「ぼくもさ」
「よし、それじゃあ決まりだ。大丈夫、きっとグレーテちゃんも気に入ってくれるよ」
ワオンにはげまされて、ハンスの不安そうな顔が少しゆるみました。
「ホントだ、お兄ちゃんのいった通りだ! オオカミさんだ!」
次の日、さっそくハンスに連れられてやってきたのは、赤毛のくせっ毛がかわいらしい、小さな女の子だったのです。ふっくらしたりんご色のほおに、目はハンスと同じく、きれいな青い色をしています。ワオンもうれしそうにグレーテをむかえいれます。
「やぁ、ようこそ『ワオンのおとぎボドゲカフェ』へ。さ、こっちに席を用意してあるよ。グレーテちゃんはどんなお菓子が好きなのかな?」
ワオンに聞かれて、グレーテはうーんと考えこみます。
「うーん、なにがいいかなぁ、チョコレートでしょ、キャンディでしょ、ビスケットにクッキーに……とにかくぜーんぶ大好き! あたし、お菓子大好きなの」
青い目をきらきらさせるグレーテに、ワオンも楽しそうに続けます。
「他にも、キャラメルやマシュマロ、カスタードプリンにエクレア、アップルパイ、クレープ、シュークリームにショートケーキ、モンブラン、タルトにヌガー、プレッツェルにマカロン、アイスクリームなどなど……。今日はね、それをぜーんぶ楽しめる、とってもおいしくて楽しいゲームを用意したんだよ」
ワオンの言葉を聞くうちに、グレーテの青い目がますますキラキラしていきます。ですが、最後の『ゲーム』という言葉を聞いたとたんに、まるで風船がしぼむようにグレーテの元気がなくなっていったのです。ワオンが首をかしげました。
「どうしたの? ゲームは、きらい?」
「うん……。あたし、ゲームしても全部わかっちゃうから。お兄ちゃんとトランプしても、なんでも見えちゃうから、つまんないよ」
さびしそうにいうグレーテでしたが、ワオンはちっとも気にした様子もなく、グレーテを席に案内します。まごつくグレーテの手を、ハンスがにぎって笑いました。
「大丈夫だよ、グレーテ。それにほら、ワオンさんのお店はボドゲカフェだから、おいしいケーキとグレーテの大好きなはちみつ入りホットミルクも飲めるよ」
「ホント? ありがとう、ワオンさん、お兄ちゃん! それならあたし、ゲームもやってみる」
はちみつ入りホットミルクと聞いて、グレーテの青い目がまたしてもキラキラ輝きだします。ワオンがあははと笑ってカウンターの奥へ入っていきます。
「それじゃあグレーテちゃんははちみつ入りホットミルクと、そうだねぇ、バームクーヘンはお好きかな?」
「バームクーヘン大好き!」
ワオンはにこっとしてから、みんなのお茶とお菓子の用意を始めました。そのうちに、ルージュとブランもやってきて、ワオンがみんなの飲み物とお菓子を用意したころには、グレーテはすっかりごきげんになっているのでした。
「さぁ、それじゃあそろそろゲームの説明をしようか。とはいっても、今日やるゲームはそんなに難しいものじゃないよ。むしろけっこう単純だ。『お菓子の家を作ろう』ってゲームだよ」
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