ゲームその1 『赤ずきんちゃんのお花畑』第9話

「あーあ、でもこれでワオンさんの勝ちかぁ。くそー、うまいことお花カード集められてると思ってたのになぁ」

「あら、最後のほうは、ブランも完全にポーカーフェイスじゃなくなってたじゃないの。でも、ワオンさんおめでとう。とりあえず第一回戦はワオンさんに勝ちを譲ってあげるわ」


 ルージュにいわれて、ワオンは驚いたように顔をあげました。ルージュはくすくす笑って続けます。


「あら、もしかして勝ち逃げしようとしてたんじゃないでしょうね? ダメよ、あと一歩で勝てたのに、最後の最後で一歩届かなかったんだし、リベンジのチャンスくらいちょうだいよ」

「それはこっちのセリフさ。今度こそぼくが一番になってやるからな! あ、そうだ、ワオンさん、ぼく今度はレモンティーがいいな。あと、よかったらワオンさんのケーキも食べてみたいんだけど、いいかな?」


 二人にいわれて、ワオンは目をゴシゴシこすって、それから恐る恐る聞き返しました。


「……ホントに、いいの?」

「もちろんよ。だってまだまだゲームは始まったばかりじゃないの。……あ、でも、今度はちゃんと勝てるときは、オオカミさんカードも捨てなくちゃダメよ」


 ルージュがいたずらっぽい口調でいいます。口をもごもごさせるワオンに、ルージュは優しく続けました。


「オオカミさんカードを捨てても、わたしたちはワオンさんを捨てたり、きらったりしないわ。それに、今までごめんなさい。わたしたち、ワオンさんのこと、少しも知らないのに怖がってて、喫茶店にも近寄らないようにしていたわ。でも、これからはそんなことしないし、おとぎの森のみんなにも、ワオンさんが優しくっていいオオカミさんだって伝えるわ。……だから、また遊びに来てもいい?」


 首をかしげて心配そうに聞くルージュに、ワオンはもう一度目を乱暴に手でこすってから、そして何度も何度も首をたてにふりました。


「わかった、うん、わかったよ! ありがとう、ルージュちゃん、それにブラン君も、それにマーイも……。ありがとう、本当にありがとう!」


 何度目をゴシゴシしても、あとからあとから涙がこぼれてぐしゃぐしゃになっていきます。見かねたマーイが、ちょっぴり意地悪な口調でワオンをうながしました。


「ほらほら、とりあえずカードはおれがシャッフルしておいてやるから、この二人にお前のご自慢のケーキをふるまってやれよ。あ、おれはレアチーズケーキで頼むぜ。それとホットミルクも追加だ。頼むぜ店長、これからどんどん繁盛するだろうし、グズグズしてないできびきびしないとな」


 愛のあるツッコミを受けて、ワオンは最後に大きくうなずいて、それからカウンターの奥へ走っていくのでした。




「いやー、楽しかったなぁ! それにルージュはさすがに強いな。一回戦が終わってから、まさか三連勝するなんて、我が姉ながらびっくりだよ」


 『ワオンのおとぎボドゲカフェ』からの帰り道に、ブランはうーんと伸びをしながらいいました。


「でも、マーイちゃんも強かったわよね。最後のゲームはマーイちゃんに負けちゃって、四連勝を逃しちゃったわ」


 手に持っているバスケットに目をやりながら、ルージュも笑顔で答えます。バスケットの中には、ワオンがおみやげにくれた、はちみつマフィンがいっぱい入っていました。代わりにルージュがつんできた花は、ワオンのおとぎボドゲカフェに飾ってもらっています。


「でも、本当にいいオオカミさんだったわね。優しいし、正直者だし……」

「確かに、ルージュと違ってひっかけたりしないもんな、ワオンさんは。それに比べてルージュは、席を入れ替えてとなりになったときとか、ホントに大変だったもん。ワインとパンカードを使われたら、毎回お花カード取られちゃうし、ぼくがうまいことお花カード集めてても、おばあちゃんカードで流されちゃうし……」


 ぷくっとふくれっつらをするブランを、ルージュはおかしそうに見ています。


「だいたい一回戦だって、ルージュがワオンさんを疑うから、最後に負けちゃったんだろ?」

「あら、それじゃあブランも気づかなかったのね。……あのカードがオオカミさんカードだってこと、わたし、ちゃーんと気づいてたわ」


 ルージュがいたずらっぽく小首をかしげたので、ブランは疑うような目を向けます。


「えっ? いやいや、うそだろ? だいたい気づいてたら、オオカミさんカードを引いたりしないだろ?」

「そうね。でも、ワオンさんがオオカミさんカードを捨てられないでいるのは、様子を見てたらわかったもの。自分の番が来るたびに、悩ましそうに手札を見てたから。だから助け舟を出したのよ」


 またたきして立ち止まるブランに、ルージュも足を止めて続けました。


「オオカミさんカードを助けてあげて、ワオンさんが勝つことができれば、次からはオオカミさんカードも捨てられるじゃない? せっかく楽しいゲームですもの、ワオンさんにも気がねなく楽しんでもらいたいって思ったのよ」

「じゃ、じゃあ、ルージュはあの10枚以上あるカードから、正確にオオカミさんカードがどれか見抜いたってわけ?」


 口をあんぐり開けて聞き返すブランを、ルージュは楽しげに見てうなずきました。


「けっこう大変だったわよ。さすがのわたしも、絶対オオカミさんカードを見つけられる自信なんてなかったから、内心ドキドキしてたわ。でも、うまくいって良かった。これでワオンさんも楽しくカードで遊べるでしょうし、そうなればわたしたちももっといろんなボードゲームで遊べるわ。それに、おとぎの森のみんなも呼べば、どんどん『楽しい』の輪が広がるでしょう?」

「……まさか、そこまで考えてたなんて。ぼくは自分の手札を見て、作戦を考えることで精いっぱいだったよ」


 「はぁー」と感嘆のため息をつくブランを見て、ルージュはくすりと笑いました。


「さ、次は誰を誘って遊びに行こうかしら?」

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