ゲームその2 『子ブタ村と目覚めるオオカミ』第1話
「だからな、ウリリン、内装を全部ぬりなおすだなんて、そんなことしてたら永遠に終わらないだろうが」
「でも、ブーリン兄ちゃん、せっかくリフォームするっていうのに、内装がそのままじゃ違和感があるよ。それに、全部ぬりなおすだけじゃ足りないよ。家具ももっとおしゃれで、カラフルなものにしないと、ゲームをするカフェとしてはふさわしくないよ。テーブルの大きさも、ボードゲームをするんだから今の大きさじゃ足りないし、素材もこだわらないと、ゲームしてるときに気分が乗らないだろうし、あとは……」
子ブタの大工さん、ブーリンとウリリンが、またもやいい争いを始めてしまいました。ブーリンとウリリンは、三人兄弟です。ブーリンが長男、ウリリンが三男でした。では、次男はというと……。
「ねぇ、ブーリン兄ちゃん、それにウリリン、まずはワオンさんたちの話を聞かないと、どうしようもないんじゃ……」
ブーリンとウリリンからちょっと離れたところから、自信なさそうにいう子ブタがいます。次男のプリンです。ブーリンとウリリンがきれいなピンク色をしているのに、プリンだけは頭が茶色く、からだは黄色い、まるでプリンのような色合いをしているのです。だからプリンという名前なのでした。ブーリンとウリリンがじろっとプリンを見ます。
「なんだよ、お前は黙ってろよ」
「プリン兄ちゃんはおれたちのいう通りにしとけばいいんだよ」
ブーリンとウリリンに同時に怒られて、プリンはしゅんとうつむいてしまいました。その様子を見ていたワオンとマーイは、顔を見合わせました。
「……なぁ、ワオン、こいつらホントに大丈夫かな?」
三毛猫のマーイが、『ワオンのおとぎボドゲカフェ』の店長である、オオカミのワオンにこっそり小声でたずねます。もともと普通のカフェだったワオンのお店は、ひょんなことから『ボドゲカフェ』にリニューアルすることになりました。ボドゲカフェとは、カードゲームやボードゲームをしながら、おいしいお茶やケーキを楽しむ、とっても素敵なカフェなのです。
「ボドゲカフェにすることになったはいいけど、やっぱり店はそのままでよかったんじゃないのか? なんかずっともめてるぜ」
マーイがさらにひそひそとワオンに聞きます。おとぎの森でも評判の大工三兄弟、『子ブタトンテンカン』にリフォームをお願いしたのはいいのですが、お店のなか、つまり内装を下見しに来てから、ずっとブーリンとウリリンがいい争ってばかりだったのです。ワオンも少しまゆをひそめてから、意見をいい合う二人に声をかけました。
「それで、いったいどのくらいかかりそうですか?」
「最初にいったけど、おれたちが払えるのは、これぐらいだぜ」
そういってマーイが、ブーリンとウリリンがすわっている席に、ドサッとふくろを置きました。ブーリンがふくろの中身を取り出して、確かめます。
「うわっ、すごい、こりゃいいにおいだ!」
ふくろの中に入っていたのは、なんと黒いキノコだったのです。マーイが得意そうにうなずきます。
「最高の品だぜ。おれが南の、『長ぐつ森』を探検して、ようやく見つけたんだ。食べたらほっぺが落ちる、キノコの王様、『とろーりトロフ』だ」
トリュフという、黒くてまん丸いキノコによく似たトロフは、『森のチョコレート』と呼ばれるほど、香りがよくて甘いキノコなのです。おとぎの森がある、おとぎ連合国では、トロフはお金、というよりも宝石のような貴重品です。それ一つだけで、森じゅうのキイチゴと交換できるほどに大切な、そしておいしいキノコなのです。
「す、す、す、すげぇ……。わしもトロフは一度だけ食べたことがあるが、こんないいにおいがするのは初めてだ」
ブーリンが興奮気味にブーッと鳴きます。マーイがへへっと笑いました。
「ま、とろーりトロフは普通のトロフよりもとろっとろで、甘みもすごい強いからな。とりあえずこれで工事代金は足りると思うけど」
「足りる足りる、というよりもお釣りがくるぐらいだと思うぞ」
ぶんぶん頭をたてにふるブーリンを見て、ワオンはホッとしたように胸をなでました。
「よかった。それじゃあよろしくお願いします」
「ああ、森の住人たちが遊びやすいように、そして、屋根を明るい色にぬりかえて、目立つようにすればいいんだな。わしの腕をもってすれば、明日には終わるさ」
ドンッと胸をたたくブーリンを、ウリリンがじとっとした目で見ます。
「ブーリン兄ちゃん、こんな高価なトロフをもらうっていうのに、そんな適当な仕事をしたらいけないだろう? 屋根のぬりかえはもちろん、おれがしっかり内装も、それにテーブルやいすも、いい素材に変えて、立派なボドゲカフェにしますよ」
熱っぽくいうウリリンに、ブーリンが食ってかかります。
「そんなことしてたら、他の仕事はどうするんだ! 他にも山ほど仕事があるんだ。クマキチの住んでるほら穴の工事や、ミツバチのチックンファミリーの巣の補強、ルージュちゃんとお茶会だってしなくちゃならないんだぞ」
「ブーリン兄さん、最後のは仕事じゃないだろう? それに、兄さんがどの仕事もさっさと切り上げようとするから、おれたちが苦労してるんだろ。引き受けたからには、しっかりしないと」
冷静に返すウリリンを、ブーリンはキッとにらみつけました。またしても口論になりそうだったので、ワオンがあわてていいました。
「あ、ほら、どうかな、とりあえず今日のところは下見は終わりってことで、せっかくだしゲームでもしていかないかい?」
ワオンの言葉に、ブーリンもウリリンもどちらも首を横にふりました。
「いや、わしはゲームはほとんどしないし、仕事もたんまりたまってるから、えんりょしておくよ」
「おれも今日下見したところを、どんな風にしていくか考えたいから、悪いけど帰らせてもらうよ」
そっけない態度をとる二人を見て、プリンがあわあわしながら、ぺこりとワオンに頭を下げました。ワオンもすぐに手をふりました。
「あ、いや、気にしないでいいよ。ただ、せっかくだし、お礼もかねてお茶とケーキもごちそうしようと思ってさ」
「えっ、ケーキですか? あ、それじゃあぼく、せっかくだからお邪魔しようかな……。兄さん、ウリリン、いいかな?」
不安そうに聞くプリンを見て、ブーリンとウリリンはいっしょにうなずきました。
「別にいいぜ、お前はわしの仕事を邪魔さえしなければ、なにしててもいいぞ」
「おれも、手伝って欲しいときはまたいうから、それまでプリン兄ちゃんは遊んでてよ」
それだけいうと、二人はいっしょにワオンのおとぎボドゲカフェから出ていき、もう一度顔を合わせてそっぽを向いてしまったのです。ドアが閉められたあとに、プリンがはぁっとため息をつきました。
「なんだかお前さん相当苦労人っぽいな。というかあの二人、あんな正反対の考えなのに、よくいっしょに仕事しているな。あ、ワオン、おれはミルクとレアチーズケーキ頼むよ」
マーイもふーっと息をはいてから、ワオンにいいます。ワオンもうなずき、それからプリンにもたずねました。
「プリン君はなにがいいんだい?」
「あ、その……ワオンさん、プリンってありますか?」
もじもじしながら聞くプリンに、ワオンはとっておきの笑顔を浮かべてこっくりします。
「もちろんさ。飲み物は紅茶でいい?」
「はい!」
ようやく元気が出たのでしょうか、プリンも弾んだ声で答えました。
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