ゲームその1 『赤ずきんちゃんのお花畑』第8話
「えっ、どういうことだよ、ルージュちゃん?」
マーイがまん丸い目をぱちくりさせます。ブランもワオンも、驚いてルージュの顔をのぞきこみます。ルージュは得意げに、5枚ある手札をみんなに見せつけたのです。お花カードが5枚、それも全部ローズマリーのかわいらしい絵柄でそろっています。
「わわわ、すごい、それじゃあこれって、ルージュの勝ちってこと?」
ブランの言葉に、ルージュは首を横にふって答えました。
「いいえ、まだわたしの勝ちじゃないわ。だってもしここでわたしが、ワオンさんからオオカミさんカードを引いちゃったら、あがれないものね。それに、お花カードを公開してあがれるのは、自分の番だけだわ」
「それじゃあ、ワオンがワインとパンカードを使ったのは、完全にルージュちゃんへのアシストになっちまったってことじゃないか。ずるいぞワオン、ルージュちゃんに気に入られようとして、アシストするなんて」
なぜかぷんすか怒るマーイでしたが、ルージュはやっぱり首を横にふります。
「ううん、違うわ。……というよりも、ワオンさん、ホントはワインとパンカードを使わなくても、あがってたでしょ?」
ルージュの言葉に、ブランもマーイもぽかんとして首をかしげました。しかし、ワオンだけは、うっと顔をそらしてだまりこみます。
「もう、ワオンさんったら、ホントに優しいんだから……。でも、勝負なんだから、ちゃんと勝とうとしなくっちゃダメよ。ワオンさんが持ってるオオカミさんカードは1枚だけ。ワオンさんの手札は今10枚……じゃなかった、ブランからカードを1枚引いてたから、11枚ね。11分の1じゃ、どうやったってわたしの勝ちだわ」
「オオカミさんカードが1枚だけ? なんでだ、どうしてわかったんだ?」
ワオンとルージュを交互に見て、目をまたたかせるブランに、ルージュはいたずらっぽく笑いかけました。
「種明かしはあとでね。まずはカードを引かせてもらうわ」
しかしルージュは、すぐにカードを引くのではなく、じっくりと一枚一枚を見定めていきました。ワオンもなんとかポーカーフェイスでいようとしています。
「……ん、待てよ、でもよ、ワオンが1枚しかオオカミさんカードを持ってないって、おかしくないか? だって、オオカミさんカードが手元に1枚だけなら、それを捨てれば……」
ルージュがちらりとマーイを見ました。
「もう、マーイちゃんったら、種明かしはあとでっていったでしょ。今は静かにして、集中させてね」
「あ、そうか、ごめんよ」
ルージュの言葉にうなずいて、マーイは口を閉ざしました。いろいろと質問したげな顔をしていたブランも、ルージュがいつになく真剣な顔で、ワオンの表情を探ろうとしているのを見て、言葉を飲みこみました。
「……これかしら、それとも……これかしら?」
ルージュもマーイがしたのと同じように、ワオンのカードを指でつかむふりをして、フェイントをかけて様子をうかがっていきます。ワオンは表情を崩さないように、必死でこらえていましたが、どうやらそれがあだになってしまったようです。ワオンの視線が、ある1枚のカードだけに注がれているのに、ルージュは目ざとく気づきました。
「ふふ、ワオンさんったら、ホントに優しいんだから。……どうやらワオンさんのお友達のカードは、これみたいね?」
ワオンが持っている手札の、一番右端のカードをつかんで、ルージュがにこりと笑いました。ハッとして視線をそらすワオンでしたが、どうやらそれは遅すぎたようです。
「うふふ、それじゃあこれがオオカミさんカードで、これ以外のカードを引けばわたしの勝ちね。……なんちゃって。これ、お花カードでしょ?」
ルージュの言葉に、ワオンは目をぱちくりさせました。
「うふふ、うまいことひっかけようとして、このカードをじーっと見つめて、さもオオカミさんカードですよって顔してたけど、わたしはだまされないわよ。これはオオカミさんカードじゃなくて、お花カードでしょ?」
またしてもワオンにたずねますが、もちろんなにも答えません。ですが、だんだんと無表情だった顔に、驚きととまどいの色が見え隠れしてきています。
「さ、それじゃあこのカードを引いて、そのあとわたしの番になったら、わたしの勝ちだわ! あとはこのお花カードが、ローズマリーだったら、絵柄もそろってとってもきれいなお花畑……えっ、あれ?」
ワオンから引いたカードの絵柄を見て、ルージュはくりくりした目を大きく見開いてしまいました。その目に映っていたのは、ビッとブイサインしてギザギザの歯をむき出しにした、オオカミの絵柄だったのです。ルージュは引いたオオカミさんカードと、ワオンを交互に見てから今度は目をシパシパさせます。
「どうして、だって、これ、お花カードのはずだったのに、なんで……」
「ごめんよ、ルージュちゃん。でも、おいら別に、ルージュちゃんをひっかけようとしてカードを見てたわけじゃないんだよ。ただ、たとえあがれるとしても、おいらにオオカミさんカードは捨てられないから、それなら誰かにもらってもらえればって思って、それでじっと見てたんだ」
申し訳なさそうに、ワオンはうつむいたままいいました。その言葉を聞いて、マーイがやっぱりといった表情で口をはさみます。
「それじゃあやっぱりワオン、お前、オオカミさんカードを捨てたらあがってたのに、わざと捨てずに、オオカミさんカードを誰かに引いてもらおうとして、ワインとパンカードを使ったんだな。まったく、バカなやつだなぁ。別に本当にオオカミが、お前が捨てられるわけじゃないってのに……」
あきれたようにいうマーイでしたが、その顔はにまにまと、ほほえましいものを見るような優しさにあふれていました。そしてそれはブランとルージュも同じだったのです。
「ま、とにかくあとは手札を公開するだけだろ。それでお前の勝ちだ」
マーイにうながされて、ワオンは申し訳なさそうな顔のまま、手札を公開しました。確かにそこには、お花カードが5枚どころか7枚もあります。ほかは猟師さんカードが2枚にワインとパンカードが1枚です。ワオンの勝ちでした。
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