ゲームその1 『赤ずきんちゃんのお花畑』第7話

 マーイからカードを配ってもらったあとに、ワオンはじーっと手札とにらめっこして固まってしまいました。ルージュ、マーイ、そしてブランの番がきて、そしてようやくワオンの番になっても、やっぱり手札を難しい顔で見ています。なんだかちょっぴり悲しそうです。


「おいおい、どうしたんだよ? ワオン、お前の番だぜ」


 マーイに呼びかけられても、やっぱりワオンは固まったまま動きません。ただ、なにかぶつぶつつぶやいています。ルージュとブランも、心配そうにワオンを見ています。


「……うーん、やっぱりこれしかないなぁ。わかった、決めたよ」


 三人がワオンの入れてくれた飲み物を飲みながら、クッキーを食べていると、ようやくワオンが顔をあげました。マーイがほっとしたようにひげを指で引っぱりました。


「あぁ、ようやく決めたか。ま、とりあえずはカード引きなよ。それからどのカード使うか考えればいいだろ」


 マーイにいわれて、ワオンはこっくりうなずき、それからカードを1枚引きました。引いたカードを見てにこりと笑うと、ワオンは場にカードを1枚出したのです。


「ワインとパンカードだよ。このカードの効果で、順番に右どなりの人から手札を引いていくからね。さ、それじゃあおいらからカードを引いていくよ」


 場に出された、赤ワインとおいしそうなクロワッサンが描かれたカードを見て、マーイが「へぇっ」と声をあげました。


「お前、そんなにたくさん手札持ってるのに、ワインとパンカード使うのか? ま、おれは助かるけどな。手札が……っと、危ない危ない、自分でバラすところだったよ」

「あっ、てことはまたオオカミさんカードばっかりだな! もう、マーイのカードを引くのはぼくなんだよ。それなのにオオカミさんカードばかりだなんて、はぁー、せっかくうまくいきそうだったのに……」


 がっくりと肩を落とすブランを見て、ルージュがくすくす笑います。


「でも、ワオンさんが効果のあるカードを使うの、めずらしいわね。さっきのおばあちゃんカード以来かしら?」

「そういやそうだな。もくもくとカードを貯めてばかりだったし、オオカミさんカードも捨てないし、猟師さんカードでオオカミさんカードを整理したりもしてなかったから、あれって思ってたんだけど。ま、なんにせよおれにとってはラッキーさ。ルージュも手札良さそうだったからな」


 にゃししと笑ってマーイがルージュを見ます。ルージュはすまし顔で肩をすくめます。


「あら、どうかしら? もしかしたらわたしも、オオカミさんカードばっかりかもしれないわよ」

「へへ、そんなこというってことは、多分お花カードがたんまりあるんだろう? 横取りさせてもらうぜ、へへへ」


 おどけるようにいうマーイでしたが、ルージュもそんな挑発には乗りません。二人が手札の読み合いをしているなか、ワオンがまずはカードを引きます。


「どのカードがいいかなぁ?」

「どのカードだって同じさ。オオカミさんカードは持ってないよ」


 鼻歌を歌いながら、ブランがスーッと右に目をそらします。その様子をじっと観察していたワオンでしたが、やがて二ッと笑みを浮かべて、そらした目と反対側の、一番左はしのカードを引いたのです。


「あっ」


 思わず声をあげるブランでしたが、すぐに口をふさぎました。それを見てルージュがくすりと笑います。ワオンが引いたのは、猟師さんカードでした。


「へへへ、おいらだって何度もひっかかったりしないさ」


 ワオンの言葉を聞いて、マーイがハハハと笑います。


「どうやらいいカードを取られちまったようだな。ま、しかたないさ。そういうときもあるぜ。ほら、おれのカードを引いて元気だしな」

「なにが元気だしなだよ、どうせ全部オオカミさんカードなんだろ。とりあえずこの真ん中のやつを……ほら、やっぱり!」


 頭をかかえるブランを見て、マーイはにゃししと笑い声をあげます。


「お前さん、ポーカーフェイスでいないとダメだぜ。でも、その点ルージュちゃんはポーカーフェイスが上手だなぁ。うーん、どれがお花カードか、わからないけど……これかな?」


 マーイはぷにぷにの肉球で、ルージュが持っている右から二番目のカードをつかみます。ルージュの口元がわずかにゆるみますが、マーイはすぐにカードから肉球を離したのです。


「あ……」

「にゃしし、ルージュちゃん、今ちょっとにやっとしただろ? おれはそういうのには敏感だぜ」


 にやにや笑いを浮かべるマーイを見て、ルージュはムーッとくちびるをとがらせます。


「もう、マーイちゃんったら、ずるいわ。そんなフェイントかけるなんて」

「へへ、ひっかかったほうが悪いんだぜ。さ、それじゃあどれにしようかなぁ?」


 にゃししと楽しそうな声を出して、マーイはゆっくりカードをつかんだり離したりをくりかえします。ルージュもその間、しっかり表情を崩さないようにがんばっていましたが、どうやらマーイには通用しなかったようです。


「へへへ、わかったぜ。この左から二番目のカードをつかもうとすると、ルージュちゃんのまゆが、ほんのちょっとだけぴくってするな。つまりこのカードは、ルージュちゃんが引かれたくないカード、つまりはお花カードだろ、それ! ……にゃにゃにゃっ?」


 すっとんきょうな声をあげてしまうマーイを見て、ルージュはこらえきれずにお腹をかかえて笑い出してしまいました。


「アハハハ、もう、マーイちゃんったら、すっごく真剣にわたしの顔を見てるんだもん、笑いそうになっちゃったじゃない。でも、残念でした。マーイちゃんがわたしの表情でカードを選ぼうとしてるのはわかったから、ひっかけでオオカミさんカードにさわられたときだけ、ちょっといやそうな顔をしたのよ」

「そそそ、そんなぁ……! うぅー、しまった、ひっかかっちまったぜ!」


 引いたカードを、マーイがひらひらとみんなに見せます。よだれをたらした、意地悪そうなオオカミの絵が描かれていました。オオカミさんカードです。ルージュはうふふと笑って、今度はワオンに向きなおりました。


「さ、最後はわたしの番。わたしがワオンさんからカードを引けば、わたしの勝ちだわ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る