ゲームその1 『赤ずきんちゃんのお花畑』第5話
「それじゃあまずはおいらからいくよ」
カードの束をシャッフルして、みんな3枚ずつ引いたあとに、ワオンがカードを1枚引きました。もちろん爪はしっかり引っこめています。
――今日はラッキーだぞ、おいら、もうお花カードが4枚そろってる――
しめしめとほくそ笑んだあとに、ワオンはあわてて口元をカードで隠しました。
――危ない危ない、こんな浮かれてたら、みんなにバレちゃうところだった――
フーッと静かに息をはくワオンでしたが、左どなりの席のルージュがくすくす笑っています。
「ワオンさんったら、ずいぶんごきげんね。それじゃあ次はわたしの番だわ」
ルージュもカードを1枚引いて、それから場にカードを1枚出しました。ワオンがあぁっと思わず声をあげます。
「はい、ワインとパンカードよ。みんな右どなりの人からカードを1枚引いていってね。まずはわたしよ。ワオンさんのカード1枚もらうわね」
もちろんワオンのカードは、全部お花カードです。どれを引かれてもお花カードが1枚減ってしまいます。
「そんなぁ、おいら、せっかく手札が……」
あわてて口をふさぐワオンでしたが、もう完全にみんなにバレているようです。マーイもブランもにやにやしてワオンを見ています。
「はぁー、今度はおいらが引く番か」
ワオンが右どなりのブランを見ます。ブランは口笛を吹きながら、3枚のカードをワオンに見せます。と、ワオンは目をぱちくりさせました。
「あれ、2枚しかないぞ? みんな最初は3枚引いてなかったっけ?」
口笛を吹いていたブランが、ギクッと顔を引きつらせました。しぶしぶ持っていたカードをずらしていきます。どうやら2枚重ねて持っていたようです。ワオンはムーッと目を細めてブランをにらみます。
「ブラン君、ずるいぞ。でもおいら、わかっちゃったよ。隠してたってことは、そのカードがお花カードだな!」
とたんにブランの顔が青ざめます。ワオンはへへっと笑って、重ねて隠していたカードを引きました。そして……。
「あぁっ! そんなぁ、どうして!」
引いたカードは、なんとオオカミさんカードだったのです。がっくりうなだれるワオンを見て、ブランがしてやったりと笑います。
「へへっ、ひっかかったな! 実は隠してたほうが、オオカミカードだったのさ。悪いけどぼくのほうが一枚上手だったみたいだね。あとはオオカミさんカードを捨てるか、猟師さんカードを引くかしないと、いくらお花カードを集めたってあがれないよ」
「うぅ、やられたよぉ……」
肩を落とすワオンを見て、マーイがにゃししと笑います。みんなが右どなりの人からカードを引き終わって、今度はマーイの番になりました。
「ま、そうがっくりするなよ、ワオン。大丈夫、おれがすぐに助けてやるさ」
「マーイ、助けてくれるって、いったいどうするのさ?」
「ほら、こうするのさ」
またもやにゃししと笑って、マーイが場に出したのは、なんとおばあちゃんカードだったのです。カードを全部束に戻して、もう一度配り直すカードです。これにはワオンはもちろん、ルージュもブランもびっくりです。
「ええーっ、そんなぁ」
頭をかかえるルージュを見て、マーイはぷにぷにの肉球でカードをいじります。
「残念だったな、ルージュちゃん。多分手札は全部お花カードだったんだろう? ちなみにおれの手札は、ほら、こんなだったのさ」
マーイが得意げに、持っていた3枚のカードをみんなに見せます。それを見てみんなはまたもやびっくり。なぜならそのカードは……。
「わっ、全部オオカミさんカードだ!」
「にゃしし、これじゃあどうしようもなかったけど、おばあちゃんカードを持ってて良かったぜ。さ、それじゃあみんな自分の手持ちのカードが何枚あるか見せてくれ」
マーイにいわれて、みんなカードを場に出していきます。ワオンは4枚、ルージュ、マーイ、ブランはそれぞれ3枚ずつです。
「あれ、どうしておいらだけカードが多いんだろう?」
「だってワオンさん、効果を持つカードを使ってないでしょ。このゲームってきっと、カードをどんどん使って邪魔したりすると、そのぶん手札が増えないから、あがりにくくなっちゃうんだわ。でも、カードをコツコツ貯めていくと、今みたいに意地悪されて邪魔されちゃうのよ。マーイちゃんったら、意地悪なんだから」
ぷくっとふくれるルージュのカードは、3枚ともお花カードでした。しかも全部カモミールの絵柄です。
「せっかくカモミールティーとおそろいになってたのに」
「にゃしし、悪い悪い。でもゲームだからしかたないだろ。それにほら、新しくカードを引いたら、またお花カードばかりになってるかもしれないじゃないか」
マーイの言葉に、ブランがめずらしくうなずきます。
「そうそう、マーイのいう通りだよ。危なかったなぁ、ぼくもさっきオオカミさんカード引いちゃったから、どうしようかと思ってたんだよ」
「あーっ、ブランったら、ずるいんだから!」
じろりと向かいに座っているブランをにらむルージュでしたが、ブランはへへんっと得意そうに笑っています。
「まぁまぁ、ほら、またカードを引いて、お花カードを集めたらいいだろう? さ、それじゃあ全部混ぜて、もう一度シャッフルしようね」
ワオンにいわれて、みんなはカードを全部混ぜてワオンに渡します。しっかり爪を引っこめて、ワオンは器用にカードをシャッフルしていきます。
「それにしても、お前ずいぶんとカードさばきがうまくなったなぁ。最初はシャッフルするどころか、カードを持つのも苦労してたのに」
「がんばって練習したのさ。さ、それじゃあまた配っていくよ」
ワオンにいわれて、みんな今度こそはとワクワクしながらカードを待つのでした。
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