第20話
「もう良い.
記憶を覗こうぞ.
この方法は,あまり私自身好ましくない.
お前の口から真実が知りたかった.」
その表情は…どう捉えたら良いのだろうな.
「許せ.」
と言いながら,みぞおちを力一杯つく.
線の細いコウは無抵抗に膝をついた.
そっとソファに移動させる.
なぜ私がお前の苦痛にゆがむ顔を見なければならぬのだ.
頭に手をのせる.
綺麗な銀の髪.
意識を集中させる.
―
幻影をかけながら,チビに言葉を教えておる.
やはりコウだったのか.
ママ,ママ慕うチビに手を焼いているな.
「そなたの母は使い捨てだ.」
と吐き捨てた.
チビが泣く…
泣いておるな…
母狼を子どもごと捕らえて…
あぁ大変そうだ.
こやつは肉体労働には向かん.
わざわざ迷いの森まで移動させとる.
幻影だけでは難しかろう.
魔封じといえど,狼は魔力というよりも,
肉弾戦に近いものがあるから.
手足を噛みつかれ,それでもやり遂げて…
城内か,
コウの寝室か.
お互い寝室は行かない決まりだったからな.
女がコウの部屋に寝ておる.
身重か.
もう,あの腹,うまれるぞ.
「姉さん,頑張れ.」
あの者は,コウの姉か.
誰の子だ.コウの子か.
元気良く泣いた.
「うまれた!」
うまれた!
黒髪・黒い眼・白い肌…
あの赤子…
チビか…
コウの部屋から,迷いの森が見えるな.
「男の子か…」
コウが呟いた.
手袋を外し,魔封じを施された…
あの動き…
魔力が吸い取られ別な場所に移動される.
やはり,コウだったのか…
どこに移した.
もやがかかって隠されておる.
この記憶…
蝙蝠族の誰かに魔封じを施されておる…
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