第27話「キネネ信者は全てを知っている」
気が付いた。
キネネは根木くんの妹だ。てっきり狐の名前を
この真実が正しいとなれば、彼女が占いで「この場所に行った方がいい」と指摘した場所に根木くんがいた理由も見えてくる。彼はきっと僕の偵察に使われたのだろう。そこで根木くんが僕の様子を提供する。
証拠が今のやり取りだ。また根木くんが妹に「警察に追われそうになった」とでも言ったのだろう。だから、キネネは僅かな人しか知らない情報を知っていた。
「あっ……」
その話題から、また変なことに気付いてしまった。
キネネがいきなり「恋が実らなかった」と言った理由も理解できた。根木くんと出会った時、僕はツン崎さんと一緒にいた。そして根木くんはツン崎さんと僕の話し方が通常とは違うと口にしていたのだ。つまるところ、彼の伝え間違いか、キネネの勘違いか。どちらにせよ、キネネは「愛助には恋人がいる」と間違った情報を真実と考えているのだろう。
そこから、キネネの優しさも見えてくる。もし僕に本当に恋愛感情を持っていたとして、だ。彼女は僕のために大事な感情を諦めてくれたのだ。
キネネに助けてほしい。僕は、キネネを信じる。頼れる相手だと見込んで、お願いをしたい。
僕は素早く相談内容をスマートフォンに打ち込んでいった。
『大事な友人が落ち込んでる時って、どうすればいいのか教えてくれないか?』
『おねショタのショタは中学生までが限度じゃろ!』
何の話をしているのかな。
「へっ」と僕の口から出る。ついでにその言葉を文字にしていた。
『へっ?』
『ああ、すまんな。違う人の話に対して回答していたのじゃ』
『どんな質問だよ……って、そんなことはどうでもいいんだ。女子なんだけど、どうすればいいか、って分からない?』
その時だった。コメントにも大量の文字が流れ出す。
『そういう時は何かプレゼントをするとか?』
『筋トレを進めるのはどうだろう?』
『時間を経つまで待つのがいいかも……だけど、ううん……』
『男の見せ所だよ! 全力で励ますしかない!』
『ちょっと待ってね。家事を手伝ってあげるとか? まぁ、そんな近しい関係でもないかな?』
『自分がいつもされていることをしてあげては? 嬉しかったこと、楽しかったことは何?』
キネネが画面の奥で小さく笑っていた。
『わっちの出番がないじゃないか。信者達から言葉を選ぶが良い。ここにいる皆は困ってる人の味方じゃからな』
何だろう。
朝から冷え切っていた心が急に熱を帯び始めた。誰かを助けたいという気持ちは独りで抱えるものではないのだ。自分でどうしようもない時は誰かに手を借りても良いのか。
まだまだコメントは流れていく。
自分達のことを想ってくれているのだ。悩んでいる場合ではない。立ち止まっている場合ではない。がむしゃらに動くべきだろうと教えてくれた。
僕は皆に感謝の言葉を述べる。
『ありがとう。みんな。家事とか、自分がされて嬉しかったこと……心当たりがあるかも……そんな人達とキネネのことにもう一つ、聞きたいことがあるんだけど……』
欲張りであることは自覚している。乞食とでも何でも呼んでくれ。それでカフェラテ子さんの、ツン崎さんの笑顔が、美味しい食事が戻ってくれるのなら、問題はない。
『なんじゃ?』
キネネの問いに答えを出す。そこで僕は先日見た、「映し鬼」に対するカフェラテ子さんへの誹謗中傷について相談したのだ。
『ちょっと内容をまとめてみたけど……こういうことが、たぶん、自分の大切な人を傷付けてる原因だと思うんだ。その後にも別の人から誹謗中傷を推奨するような言葉があるんだけど、これって……』
今度はキネネが強い言葉で返答してくれた。かなり真剣な顔付きだ。
『ああ……これは全部一人の人間だろうな』
『えっ!? 一人?』
『一人が複数のアカウントを使って、自分の好きなVtuberには誹謗中傷と悪口を気にしないよう応援するコメントを書く。応援するコメントで自分は注目されて、たくさんいいねを貰えたり、そのVtuberに注目されたり。で、自分の気に食わない相手には徹底的に攻撃する』
『そ、そんなことが……一人で?』
どうも信じられない話だが。他の人がコメントで「酷いよね」と言っている中、彼女はVtuberである経験談を語っていく。
『誹謗中傷する時に、一人で大きく見せようとしているのじゃ。まるで、他の人もそう思っていますよ、と配信者に思わせるみたいに、な。一人なのは間違いないじゃろう。前に似たようなことをやった人間をメールアドレスごとブロック、そうじゃな。ここにコメントできないようにしたら、消えたのじゃ』
『そ、そうか……』
『何かまだ心残りがあるコメントじゃな』
心を文字で見透かされているらしい。
『なんで、そんな奴等の餌食にされないといけないんだよ。カフェラテ子さんが……』
『カフェラテ子か……ちょっと待てよ。調べてみる……と思ったが、やることが早いな。信者諸君、ありがとうな』
彼女はコメント欄から送られてきた情報を伝って、カフェラテ子さんのことを調査していた。どうやらこの中にもカフェラテ子さんを知っている人がいたらしい。
『で、キネネ……どうだ』
『……他とは彼女は違うんじゃな』
『えっ?』
『彼女はわっちよりも他の人のコメント、声を楽しみにしておる。つまるところ、視聴者のどんな言葉にも応じようと頑張っているのじゃ。皆を応援しようと。応援しなきゃ、と』
『……そうか。確かにカフェラテ子さんはいつも、たくさんコメントを返してくれた……!』
『だからこそ、誹謗中所に対しても悩んだのじゃろうな。どう返すべきか。返さなければ、前に進めないと。SNSなどにも更新がないのもその証拠じゃ。そのまま誹謗中傷を無視する訳にはいかないと思っているのじゃな……ブロックすれば、一発で終わるものの……』
カフェラテ子さんは真摯に対応しようとした。だから、誹謗中傷した人間は余計に楽しんでいるのだ。優しい人の、思いに付け込んで。自分が気に入らないからと言って、傷付けて。
許せない。絶対に許さない。
僕は心に熱いものを宿し、とんでもない決断を心に決めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます