第3章「カフェラテ子さんは乗り越えたい」

第22話「男子大学生愛助は言葉に惑う」

 思わず声が出てしまう。異様なメッセージがコメントの最後につづられていた。


『誰にでも優しいVtuberって何だよ? 裏では人の悪口ばっか言ってんだろ? だいたいそういう奴だって分かんねぇかな? リスナーもたいがいおかしな奴等ばっかだなぁ?』


 それだけではない。同じ「映し鬼」となるアカウントから、次々と煽るようなメッセージが送られている。


『おい? 何も言わずに切っちまったなぁ? おいおいおい? ひよっちゃったかなぁ? おいおいおい?』


 この前の配信はキネネに集中していて、終盤に他の人が何をコメントしているのかを見ていなかった。

 何だかこの先を読んでいくことに対し、不安だけがつのっている。それでもカフェラテ子さんが何を言われていたのかが気になった。

 スクロールしていくと、また別のアカウント、「モンキーミックス」と名乗る者がカフェラテ子さんにコメントを送っていた。


『おい。大した覚悟もないのにここにいてはダメだろ。生半端な覚悟では他の頑張っている人にも迷惑だし、お前自身危険なことにも遭うんだ。これは忠告だ。そうでないと、こういう奴がまた現れて、リスナーも他の配信者も傷付ける。こういうのを刺激したり、反応したりすると助長するだけになるからな』


 これは、彼女を助けようとして出している言葉であったのか。その言葉に馴染みのリスナーが同意してもいた。

 しかし、僕は違和感だらけであった。

 いきなり彼女の配信に文句を付けてきたアカウントは見たことがない。それに加えて、忠告のコメントをしている人のアカウント名も初めて目にしたのだ。

 たまたま来ていた人がこのコメントを目撃して、カフェラテ子さんにアドバイスをした。このシナリオが不思議で不思議でたまらない。

 

「調べてみるか……」


 ベッドに座り、調査を開始した。

 そのアカウントの名前をタッチすれば、アカウントが何をしてきたかの画面に移行する。そこで奴がどの動画でどんなコメントをしたのか見ることができる。

 まず、調べたかったのはカフェラテ子さんを煽った「映し鬼」だとか名乗っているアカウントからだ。

 調査していく中で一回後悔した。彼は様々なVtuberに絡んでは、煽っている。まるで彼等、彼女達を馬鹿にしているような口調で、他のリスナーにも喧嘩を売っていた。見ているだけで非常に不快になっていく。

 それに関して「モンキーミックス」はどうだと確かめていく。

 すると、そちらのアカウントもまた様々なVtuberの元に現れているのが確認できた。しかも、「映し鬼」が通った後にコメントを送っている。

 

『Vtuberとしての才能は悪くない。誹謗中傷なんて気にせず、前を向くといい』


 ただ、カフェラテ子さんに送られているものとは違うことにまた疑問を持った。何故、彼女にだけ厳しさを伝えるのか分からない。

 もっと励ませば、良いのでは……?

 彼女へ理不尽な言葉を送った意味が理解できず、頭がぐちゃぐちゃになっていく。その中で眠気も襲ってきたのか、不意に意識が消えた。

 そして、通学路に立っていた。

 ぼんやりとした世界がすぐに夢だと気が付いた。瞬間、目の前にツン崎さんが登場。彼女は小さい声で何か呟いている。耳を傾け、僕は大きい声で言ってもらうようお願いした。


「ツン崎さん……?」

「ワタシ、カフェラテ子に向いてないのかなぁ」


 夢の中の彼女は、悩んでいた。僕が寝る前に見ていたことが原因で、間違いないと思う。

 

「そ、そんなことない!」

「でも、だよ。他の人をそれで不幸にしてちゃ……」

「不幸になんてしてないから! カフェラテ子さんに助けてもらってるんだ! 絶対そんなことないから!」

「でも、他のリスナーだって、最後の言葉には同意していた……やめた方が自分のためって。ワタシ、他のVtuberの足を引っ張ったりするの嫌だよ。頑張っている人達の邪魔をするのは、リスナーが傷付くのは嫌! 応援だけをしていたい!」

「ツン崎さんは気にしなくてもいいんだ! 悪いのは全部悪口を言う奴の方だから!」


 僕が何度言っても、彼女は納得してくれなかった。どんどん顔を陰らせ、こちらの言葉を否定する。首をぶんぶん横に振るどころか、体までぶるぶる横へと振っていた。


「幾らワタシのせいじゃないって言われても辛いわよ。後、ワタシ、覚悟なんて持ってない!」

「いや、ツン崎さんは覚悟を持ってると……」

「猫になる覚悟なんて!」

「へっ……?」


 納得しないどころか、話の話題が百八十度位変わっていた。彼女に来る嫌がらせのコメントで悩んでいたのではないだろうか。


「猫になれば、皆に迷惑を掛けずに済む……吾輩は猫系Vtuberになって、にゃあにゃあ言えば、それだけで幸せの招き猫になれるからね。別に何も喋れにゃくとも幸せをお届けできるにゃ」

「ツン崎さん……? いや、ニャン崎さん……?」


 夢の中の僕はどうして言い換えたのだろうか。自分が自分のキャラにも合わないことや意もしないことをやり始めるから夢って嫌い。


「ワタシ、猫になるにゃ! にゃーんにゃーん! にゃにゃにゃ、にゃーご」


 気付けば、ツン崎さんの頭に黒い猫耳が二つ。耳がぴょこんと立ったり、垂れたり。今度はツン崎さんがうつ伏せて、「にゃん」と鳴いていた。

 ついでに細長い尻尾なんかも生えちゃっている。

 

「ニャン崎さん……」

「にゃーんにゃーん」


 彼女は甘い猫なで声と言うか、本物の猫の声で鳴いた後、突如として僕の顔を引っ掻いた。その後はまた元通り。自分の犯した罪も忘れ、顔を洗っていた。

 呆れていると、彼女の姿は完全に黒猫へ。


「本当に猫になっちゃったよ……何か、すっごく幸せそうだなぁ」


 今はすやすやと眠っている。僕も眠くなってきたし、寝よう……って、ああ、ここは夢だったか。

 そう思い返した時点で目が覚めた。

 悪夢なのか、全く分からない。起きた後の気持ちは複雑だ。考えようによっては悪夢を見た方が良かったかもしれない。「ああ、悪い夢だった。起きることができてハッピー」となれるから。

 まぁ、とにかく、僕が今彼女にできることをやってみよう。あの一連で彼女が迷っているなら、傷付いているなら。何にせよ、彼女の励まさなければならない。

 僕はカフェラテ子さんの大ファンなのだ。

 一回詰まったところで配信をやめてほしくない。消えてほしくない。彼女がこのまま健全に配信を続けていけるよう、僕が全力で助けてみせる。どんな手を使って見せてでも、ね。


 

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