第21話「愛助は真実に向き合う」

『占いについて凄い褒めててね。他の人もそれで盛り上がってたし。その絵が褒められたことに対して、他の人も凄い誇らしく……コメント欄が盛り上がってた。たぶん、それだけキネネがファンを大切に思っているから、逆に応じてくれるんじゃないかな。それだけ愛されてる人ってことはいい人ってことだし、優しいことも分かる』


 長いコメントを送信しておいてから、何だか偉そうなことを言ってしまったなと後悔した。

 自分でも何故、こんなにファンの気持ちを理解しているのかと疑問に思った。いや、カフェラテ子さんのファンだからきっと分かったのだと思う。僕達が彼女の同じエロイラストに関して盛り上がっている立場だとしたら、カフェラテ子が愛されていることは間違いがないから。

 例えとして挙げてみたが、カフェラテ子さんにそういういかがわしいイラストはあるのだろうか。後で調べてみよう。いや、別に下心があるのではなく、カフェラテ子さんにどんな人気があるのか、ファンとして知りたいだけなのだ。と、誰も聞いていないのに心の中で言い訳をしていた。

 一度落ち着いて、僕のコメントに反応するキネネの発言を聞いていく。


『そうか……じゃあ、何故お主が多くのVtuberに愛されているのか、教えてやろうか。そして、その対処法を教えといた方がいいか?』


 ええと、そう言えば、そうだった。自分はツン崎さんに「たくさんのVtuberに狙われてる」と言われていた。キネネやカフェラテ子さんの動画しか見ていなかったから、そんな滅茶苦茶なトラブルについて考えてもいなかった。キネネもそのことについて知っていたのか。

 愛されている理由……非常に気になる。おふざけで好きと言われているのであれば、いいが。奇妙な恋心や愛に見せかけた殺意があれば大変だ。それがないと安心するためにも聞いておきたい。

 ただ、こういう秘密って小説や漫画とかだと最終回まで取っておくものではないか。話そうとすると、キネネが誰かに口封じされてしまう可能性がある。

 僕の目の前で何者かに外から狙撃されるVtuber。荒れるコメント欄。そして、僕にまで迫りくる魔の手。


「ううん……大変だ……キネネ……キネネ、キネネっ! キネネぇ!」


 あれ、倒れたはずのキネネがいる。生き返った……? いや、そもそも銃撃されてもいないんだった。

 何故自分の気が狂ったのかは考えるのをやめ、キネネに理由を求めていく。


『で、どうなんだ……?』


 彼女の前に暗殺者が現れることもなく、真実が語られていった。


『つい、お主のことをたまたま見てしまったのじゃよ。本当に占いをやっていたところで、そのな……。お主の名前が出てな。それで何回か、お主のアカウントのことをにおわせていたらな……わっちのライバルみたいな人がいるんじゃが、その民がな……どんどんどんどん、便乗して。その名前を出して、自分の方が好きだ、自分の方が好かれていると主張し始めたんじゃな』


 いや、他のVtuberを好いたと公言した覚えはないのだけれど……。何が起きたのかサッパリである。とにかく、キネネに対抗するためだけに僕は好かれていたのか。

 その対処について、彼女は語っていた。


『すまないが、そのアカウントは消してくれないか……ちょっと待って一回消してまた作り直すだけでいいのじゃ。それだけで皆の縁が切れるのじゃ。でないと、取返しのつかないことになるのじゃぞ』

「えっ?」

『その嫉妬の争いが最悪なことになって、お主のそのアカウントから住所を特定しようという運動がひそかに……始まっておる。土日のうちにどうにかしなければ、お主は、そのVtuberに丸裸にされてしまうぞ! 最後には意地の張り合いからお主がリアルで脱がされることとなる!』

「はっ!? ううむ? ええ、何で!?」


 住所特定はやめてくれ。いや、何か悪いことをしたのならまだしも。僕って巻き込まれてるだけだよね……? ううん、自分のしてきたことが正しかったのか断言できなくなってきた。

 自信喪失で項垂れている間にもシリアスな忠告は続いていく。


『とにかく、その時点でアカウントが存在しなければ、特定もできないのじゃ! Vtuberは権力、お金、可愛さ、そして呪術、何を使ってでもお前に愛されるためなら何でもする』


 ふと疑問に思ったことを恐る恐るコメントをする。


『Vtuberの闘いってそんな熾烈なものなの?』

『当たり前じゃ! 何処の世界だって、自分より上のものより可愛くいたい、美しくいたい、勝っていたいという気持ちが存在しておる。わっちが知ってる100にもいるVtuberはそんなことを考えておるのじゃ』


 ……つまるところ、本気で愛されてはいないと言うことだろうか。何かそこは寂しい気もする。しかし、今はそれよりも対処法について考えなければ。

 もう一度コメントを入れる。今度は消すのに当たって心配していること、だ。


『いや、ただね。自分にも今、応援している人がいて。アカウント消しちゃったら、その人が……って』

『ああ、それは大丈夫じゃ。心配しないよう、ちゃんと連絡を取っておく』

『じゃあ、そこは懸念しなくていいんだ』

『ああ……すまない』


 一回消すだけで、僕のトラブルは全て解決する。

 ならば、やるしかあるまい。ただ一つ。途中で気になることをポツリと彼女が呟いた。


『もし、消した場合は本当にダメだと思って諦めるのじゃ。自分の占いは当たらなかったと思ってな。いや、お主と占いだけではなく……』


 占いとは関係なく……何を言っているのだろうか?

 占いでたまたま出たから好きと言っていた覚えしかない。コメント欄は今度はキネネを「恋する系統のVtuber」としてはやし立てていた。

 これだけ来て、よく「オレの妻を他の人にやらん!」なんて悪いメッセージが来ないな、と思うが……いや、この優しい世界こそ、キネネの魅力が映し出したものなのだろう。

 動画だけではなく、それを慕う人達の言葉自体がキネネの制作した宝物なのだ。

 

「凄い世界だ……僕達のカフェラテ子さんもこんな風になったら、いいな……ってあれ?」


 自分達が敬愛しているカフェラテ子さんのコメント欄も平和で尊いものだったはず。そんな過信は彼女の配信の最後に付いたコメントのせいで打ち破られることとなってしまった。


「えっ……? どういうことだよ?」

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