第38話 暑轢

「「はぁー……」」


 きょう詩音さびやしおんは声を揃えて落胆する。

 理由は明白だ。詩音の案内で鳴子めいこの住むアパートを尋ねたのだが、姿どころか声さえ聞くことが出来なかったからだ。とどのつまり、家に居なかったのだ。

 相も変わらずメッセージには既読がつかない。

 何時までも開かない扉の前で立ち往生している訳にも行かず、2人は諦めて今は九判こばんでアイスを食べている。

 5月の初旬だと言うのに、気温は20度を超えていた。額にかいた汗を拭い、歩いたというのに目的は嘲笑うかの様に失敗する。ストレスと熱気で火照った身体は、冷たい甘味で労わなければやってられないというものだ。


「あー!!ナルコの奴、マジで何処に行っちまったんだよー!」


「……キョーくん、余計に熱くなるから叫ばないでぇー」


「家にもいない!連絡もしない!俺たちの絆はその程度だったのかよぉー!」


「うっさい!!熱くなるから止めてって言ったでしょ!いなかったんだから仕方ないじゃん!!」


 夏の暑さは何故こうも人を荒ぶらせるのか。普段なら気にならない些細なことで苛立ちを感じてしまう。響と詩音は歯を剥き出しにしながらお互いを睨みつけた。

 そんな様子を遠目から見ていた十語とうごは痺れを切らし、遂に声をかけた。


「店先で喧嘩されると客足が遠のくんだよ。ほら、アイスサービスするから、2人とも落ち着いてくれ」


 十語の手にしたアイスをすかさず奪い取ると、2人は睨み合ったままプラスチックの容器に入ったコーヒー味のシャーベットを吸い始める。

 その様子を見た十語は呆れた様に息を吐き、後ろ髪を軽く掻き毟りながら、また店の奥へと戻っていった。

 先にアイスを吸い尽くしたのは紫音だった。バツが悪そうに響の顔を見ると、ぽつりぽつりと話し始める。


「……でも、キョーくんの言う通りだよ。流石に連絡が無いのはどうかと思う」


「……まぁ、あの真面目ガールのなるこが連絡も寄越さないんだ。きっと何かあるんだろ」


 心配するが故に苛立ちに変わった自分の内心を反省しつつも、それを素直に認めることの気恥しさを隠す様に、響はより力強く氷菓を吸い上げる。

 結露に濡れた2人の手先は日差しを反射してキラキラと光が瞬いていた。

 すると、ひとつの影が落ちた。唐突に彩度を下げた視界に驚いた詩音と響はほぼ同時に顔を上げ、更に驚きの声も重なる。


 彼らの前には八脚馬はかくま高校の生徒会長、“山田やまだしずかが気だるげな表情を浮かべながら立っていた。

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