第17話 討ち入り

「すまない足が動かないんだ。私も一緒に連れて行ってくれ」


 見ると、商談相手の足は数発被弾していて、無残な姿になっている。損傷は酷く、傷が神経まで届いているため、痛みを通り越して感覚がないのだ。


「今回の商談は無しだ。悪いな」


「ちょっと待ってくれ、いくつかの店舗を差し上げてもいい。だから私を助けてくれ」


「それはできない……もうあんたに用は無いんでね」


 山代はそう言うと、すがってくる商談相手の頭を拳銃で撃ち抜いた。懇願し続ける最期の顔は涙と血で汚れていた。

 すぐに若い衆の背中を押すと、何も言わずに走り出す。飛び出した山代を見て、仮面の集団が引き金を引いた。

 横殴りの銃弾の雨が、若い衆の体を弾き、盾の役割を全うした。チーズのように穴が開いた若い衆の遺体を出入り口付近で投げ捨てると、出入り口から脱出する。

 外の一般客は階段に殺到していた。流れに乗るにしても階段からでは押し戻されてしまう。そこでエレベーターに目を向けた。すでに数人の組員がエレベーターの前で山代を待機している。


「組長、すぐにエレベーターに乗ってください」


「いまそっちに向かう」


 山代は拳銃をベルトに挟み、腕を振ってフロアを駆けた。正面で待つ組員は山代の背後から追ってくる仮面集団に対して威嚇射撃を行い、連中をレストランの中にとどめた。

 息を切らしながら、エレベーターの前に到着すると、二人の組員が山代に背を向けて、壁を作る。

 下から上がってきたエレベーターがついに最上階に到着し、扉が開いた。だが安堵もつかの間、その中には拳銃を構える女二人が待っていた。


「おい、後ろ!!」


 山代が振り返り、そのことを組員に知らせたが、二人の頭をすでに撃ち抜かれていた。山代はもう一度、エレベーターの中を見る。そこにはやはり十九歳くらいの武装した女が仁王立ちで睨んでいる。

 山代は慌てて、踵を返し、階段のほうへ逃げようとする。しかし鼻先に男の分厚い胸板が当たった。

 ゆっくりと見上げると、バンダナを口に巻いた男が立っているではないか。


「この野郎、どきやがれ!!」


 叫びながらベルトに手を回すと、その鼻っ柱に鉄拳が飛んでくる。体が吹っ飛び、エレベーターの中へと引きずり込まれた。

 女にみぞおちを蹴り上げられると、外の男がエレベーターの中へと入ってきた。

 扉を閉め、密室には山代の他、ミネルヴァの幹部である健斗そして副リーダーの瑠璃、リーダーの紫苑が囲んだ。

 折れた鼻から流れる血で汚れた顔面を掴み上げ、さらに床に叩きつけた。ベルトに挟んでいた拳銃を奪うと、それでつま先を撃つ。

 断末魔を上げた山代は息を荒げながら三人を見上げた。


「てめぇら……どこの組に雇われた……」


「組……知らねぇよ」


 瑠璃がブーツで粉々になったつま先を踏みつけた。密室に響く悲鳴。全身の汗腺から汗が噴き出してくる。


「金か……それとも俺に恨みでもあるのか」


「あるね、大ありだよ」


 紫苑が瑠璃をどけて、前に出ると山代のネクタイを引っ張り上げる。


「あんたがあたしの親父を殺したんだろ」


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