第16話 討ち入り
「いまの銃声でしたよね……」
商談相手は血相を変えて尋ねてきた。だが山代の対応は冷たい。指を唇の上に置き、黙るように指示した。落ち着いた様子で銃声のほうへゆっくりと目を向ける。
その視線の先。厨房から悲鳴が聞こえた。すると中から白い仮面で顔を隠した連中が拳銃を持って飛び出してきたのだ。恐らく十人くらいだろうか。
商談の邪魔になるために同席には最小限の組員しかつけていなかった。それが先ほどの騒ぎで出払っている。目の前には商談相手、盾となる者は近くにはいない。
我先にと逃げ惑う一般客。テーブルは倒され、椅子は転がり、怒号と悲鳴の濁流が出入り口へと殺到する。
仮面で顔を隠した連中はその雑踏の中から山代を探していた。留まれば時期に見つかり、殺されるだろう。それなら多少のリスクは覚悟のうえで一般人のふりをして、流れに乗ることが定石。
だがその流れに逆らって出払っていた組員が戻ってくる。
「組長、若い衆が何者か襲われたみたいです。それにさっきの銃声はどこから……」
「馬鹿野郎! てめぇはこっちに来るな」
組員が山代のことを呼んだおかげで居場所が割れた。仮面の十人組は一斉に山代に向けて発砲するのだった。
組員が仮面の連中を見つけた時にはもう遅い、ホルスターから拳銃を取り出す前に蜂の巣となる。
山代はテーブルを倒し、盾を作ると、そこに身を隠した。商談相手もその中にすり寄ってくる。倒れていた組員の手にあった拳銃を奪うと、スライドを引き、発砲の準備を整えた。仮面の連中は取り留めなく発砲しながら距離を詰めてきた。
山代はポケットからスマホを取り出し、ホテルの外で待っている組員に連絡を入れる。
「ヒットマンだ。警備は何をやっている! 」
「本当ですか……」
「馬鹿が……絶対に逃がすな」
怒鳴り声を画面に向けて発すると、今度は入口を見た。そこで拳銃を構えている若い衆と目が合う。
どうやらビビってる様子だった。組長が窮地に陥っているというのに、身を張って守る勇気が無いのか足がすくんでいる。
山代は若い衆を睨みつけて、「こちらに来い」というジェスチャーを行った。すると若い衆はさらに縮みあがり青くなった顔で頷いた。
叫び声を上げながら仮面の集団めがけて発砲する。集団の目はそちらに向き、一斉に伏せた。
そのまま走ってきた若い衆は山代が隠れているテーブルの裏に身を隠した。肩で息をしていて、手は震えている。
「てめぇコラ」
山代は奥歯を震わせた声で静かな怒りを露にした。
「すみません……ビビっちまいました」
謝る若い衆の頭を引っ叩くと、胸倉を掴み上げ、顔を近づけるのだった。
「悪りぃと思っているなら行動で示せ!」
「はい、何でもやります」
「じゃあてめぇの体貸せ」
山代はそう言って、若い衆の背中を引っ張り上げる。シャツを掴み上げ、肘で背中を伸ばさせると、小さな声で言った。
「お前はとにかく走れ、その拳銃を奴らに向けながら横走りだ。俺がここを出るまで盾の役をしろ」
「わ、分かりました……」
若い衆は震えながら頷いた。
「よし、行くぞ」
山代がそう言ってテーブルを飛び出そうとした時、足に違和感があった。自分の足元を見ると商談相手が足首を掴んでいるではないか。
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