第15話 討ち入り

 山代組は風俗営業で旗を上げた組である。その勢いは凄まじく、町の風俗店のケツ持ちを次から次へと行い、今まさに飛ぶ鳥を落とす勢いでシマを拡大していった。

 だがこの家業をものにするには、どうしても大きな壁にぶち当たる。その壁こそが城場善一郎だ。最大の商売敵は漬物石のように微動だにせず、その座を譲る気などさらさらない。いくら拡大しようが結局は城場の手の中。この男がいる限り、日本の風俗店は揺るがない。大きなビジネスで金を動かすにはどうしてもこの男の存在が邪魔だった。

 そこで殺し屋に仕事を依頼したのだが……それも失敗に終わり、腹の中が煮えくり返る思いだった。しかし後日、舞い込んできた当然の訃報――

 山代は我が強運に歓喜し、ネクタイを締めるのだった。


 風俗王が消え去った今、山代組は城場の監視下にあった風俗店との提携を急速に結ぶため、関東中を飛び回っていた。まずは関東、そして中部、東北と最終的には東日本全域にその系列店舗を持つことを夢見ていた。

 山代は自らの足で先方に向かい、最初は腰を低くして相手に付け入る。そのため、ファーストコンタクトでは礼儀が正しく、印象も実にいい。

 だが契約が決まった途端、豹変して金を巻き上げる。そうやって数々のシマを増やしていった。

 そして今宵も山代は栃木に店舗を構える外国人ヘルスのオーナーとの会食を行っていた。この商談が成功すれば、関東は山代組のもの。一層気合が入っていた山代は都内の高層ホテルに併設されている高級フレンチを用意した。地上一五〇メートルのホテルの最上階から見下ろす、夜景は至高そのものだ。


「こんな素晴らしい場所に招いていただきありがとうございます」


 栃木のオーナーは興奮気味にそう言った。


「ほんのささやかなもてなしですよ。今晩は遥々、お越しいただきこちらこそありがとうございます」


 そんな他愛もない会話から入っていく。山代は組長にしては若かった。上部組織、仙堂会の生え抜きで若くして自分の組を持った。武闘派ではなく、頭がキレ、利益のためならどんな汚いことでもするというインテリヤクザ。

 会話も途切れることなく、次から次へと話題を変えていった。それでいて相手の表情や仕草をよく見て、商談に入る機を伺う。交渉を成功させるために様々な知恵と工夫があった。


「それではそろそろ、本題のほうに入らせていただきます……」


 山代がそう言って、グラスに残ったワインを飲み干す。背広を但し、椅子に座り直すと目の色が変わった。

 その時である。興を削ぐような怒号が聞こえてきた。入り口で護衛をしていた若い衆が誰かと揉めているようだ。

 山代はすぐに振り返り、舌打ちをする。


「大事な商談の時に何事だ。大したことじゃなかったらただじゃ置かねぇぞ」


 山代は近くにた組員に耳打ちをする。組員はすぐにジャケットの中に手を入れ、拳銃に手を掛けると様子を見に入口へ走っていった。


「すみません、うちの若いのが……」


「いえいえ、とんでもない」


 山代はあまり外のことを気に掛けず商談に戻ろうとする。すると今度は銃声が響いた。これはさすがの山代も身をかがめる。テーブルに手を突き、椅子を引いてしゃがみ込んだ。


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