第14話 ギャング

「皆には申し訳ないと思っている。これはあたしの完全な私闘。そんなことに組織全体を巻き込むのは迷惑だってあたしが一番理解している」


「そんなことを言うなよ、瑠璃。あたしたちはあんたに助けられた。だからこれはその恩返しだってそう思っているわ」


 瑠璃は紫苑の頬を撫でながらそう言った。


「今思っても糞親父だったよ。借金まみれになった女を娼婦として働かせたり、田舎から出てきた何も知らないガキを引っ掛けたり、親父の話を聞けば聞くほど胸糞悪い。でも……そんな糞野郎でも、あたしのたった一人の親父だったんだ。あたしも殺されといて黙っているような女じゃねぇ。だから例え、独りでもこれだけは実行する」


「分かっている……多分あたしも紫苑の立場だったらそうする」


「だけど一つ言っておく。これはいままでの喧嘩とはわけが違う。相手にするのは本物。大事な人がいるやつとか、少しでも怖いと思った奴は絶対来るな」


 紫苑は瑠璃と健斗の目を交互に見ながらそう言った。


「そして来なかった奴を咎めることは一切許さない。これだけはミネルヴァのボスとしての命令だ」


「紫苑さん、多分みんな来ますよ。恩義を感じていない奴なんていませんから」


 健斗がそう言うと、紫苑はぎろりと睨みつける。


「そういうことを言っているんだよ、馬鹿。これは全くの自由参加なんだ。あんたら幹部連中が変な流れを生むと、覚悟が決まっていない奴らも来ちまう。そうなったら誰が責任取るんだ? それにあたしはただの情だけで言っているんじゃない。そういう覚悟が決まっていねぇ奴らがへまする。そうなったら全員が危険な目に遭うんだよ」


「それは分かっています、しかし……」


 食いかかった健斗に対して、紫苑はテーブルの下に置いてあった木の箱を持ち上げた。中身が決して見えないように梱包されていて、かなり厳重に保管されている。

 紫苑は重たそうにテーブルの上に乗せると、小型のバールを使って開けた。木箱の蓋が外れ、健斗と瑠璃が中身を覗く。


「紫苑……これ」


 瑠璃が恐ろしい剣幕で見返した。


「これはこういう戦い――いままでとは何もかも違う」


 紫苑が開けた木箱には銃器が入っていた。拳銃と弾丸、さらには手榴弾までも並べられている。


「こんなもの……どこで」


「あたしが調達してきた。武装している組、相手に丸腰と言うわけにもいかないでしょ。これじゃあ少ないくらいよ」


 健斗は興奮しながら拳銃に触れようと手を伸ばした。


「まだ触るんじゃない。練習はさせるけどメンバーが決まってから。決行日までに全員が扱えるくらいにはしとかないとまずいからね。てめぇの命はてめぇで守る。それが今回の喧嘩だ」


 二人は紫苑の圧倒的な覚悟に生唾を飲み込んだ。けじめとして人を殺すことは分かっていたが、いざその道具を目にすると背筋が寒くなる。紫苑の曇りのない覚悟を目の前に、瑠璃の気持ちも一層強くなった。

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