第13話 ギャング

 潰れたバーの内部は不良たちのたまり場になっていた。大人たちからは「くらだらない」と一蹴されるが、ここにいる連中は本気でミネルヴァという旗を掲げている。

 ファッションで不良をやっている連中もいるが、このグループは違った。ならず者の集団で皆、何かしらの事情を抱えていた。

 社会から落後した者たち集まって作ったのがミネルヴァである。そのためカラーギャングでも暴走族でもない。むしろそう言った連中全てに歯向かい、戦いを挑む狂犬。そのため数々の不良グループから一目を置かれる存在となっていた。

 バーの壁には旗が飾ってあった。ドラクロアの名画『民衆を導く自由の女神』に似た旗印で、女神はフランス国旗の代わりに剣を持っている。ものが散乱したアジトだが、その旗だけは綺麗に整えられていて、塵一つついていなかった。

 そして店の奥、当初はVIPルームとして使われていた場所にこのチームのボスがいる。

 健斗を連れて、アジトに戻った瑠璃はそこのカーテンを払った。真っ赤なソファーには足を組んだ女が座っている。手を口元に置き、何かを熟慮している様子だった。


「紫苑……いま帰ったよ」


「偵察ありがと」


 城場紫苑じょうばしおんはミネルヴァを取り仕切る組織のボスである。このチームは親友である瑠璃と二人で築き上げた。男に舐められたくない一心で始めたチームだが気が付いたときにはその規模も増大し、今では五十人を超える。

 紫苑は風俗王、城間善一郎の娘であり、その影響で幼いうちから素行を悪かった。生活に不自由は無かったが、やはり自分の父親が娼婦を宛がう男と言うのは子供ながらに分かっていた。

 自分の父のことは決して好きではない。そのせいで色々苦労したし、この城場という苗字が付いて回るため、真っ当な道に戻れないことも悟っていた。

 紫苑は女らしく、強く生きることを決意する。石上瑠璃も母親が娼婦で父は知らない。風俗街で産み落とされ、風俗街で育った。似た境遇だった二人は互いに惹かれ合い、親よりも信頼し合える仲となっていったのだ。


「そっちはどう? 奴の居場所……分かった」


「ええ、ばっちり」


 紫苑はそう言うと、テーブルの下から一枚の紙を取り出した。


「これが山代雍也のタイムスケジュール。瑠璃が帰ってくる数十分前に幣原とかいう探偵が持ってきたよ」


「本当にそいつを信じて大丈夫なの?」


「いけ好かない笑い方をするけど、無能ではなさそう。まぁあたしたちを騙しているなら山代をやった後そいつをぶっ殺す」


 瑠璃は渡されたタイムスケジュールを読み進めた。山代組、組長の山代雍也うあましろようやを手に掛けるのだ。そこまで楽なことではない。必ず、周りには護衛がいるし、市民の目もある。派手に行動も出来ないのは事実だった。

 そのため他の連中に構っている暇はないのだ。殺しを実行する時にミネルヴァをよく思っていない連中と鉢合わせでもしたら立てた計画も水泡に帰す。

 瑠璃はタイムスケジュールをテーブルに置き、紫苑の目を見た。


「本気なのね」


 紫苑の目には一切の曇りなかった。


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