第6話 銀行
銀行強盗、それならまだいい。しかしこの男は素早く金を奪い、逃げる気なんてさらさらない。恐らくこの銀行に対する怨恨の籠った強盗なのだろう。しかし予想していたとはいえ驚いた。まだ年端も行かぬ青年が武器を手にして銀行を占拠している。
高校生くらいの子供に大人たちが怯え、従う光景に違和感を覚えながらも、叡山は大きな溜息をついて、両手を上に持ち上げた
「すぐにシャッターを占めろ、誰も入れるな、そして誰も出すなよ」
どうやら大きなボストンバッグに入っていたものは猟銃だった。単発式の猟銃は正規の届を出せば日本でも手に入る。恐らく猟銃会から奪ったものだろう。ここで攻勢に出て戦えば、簡単に殺せる相手。だが人の目が気になる。この後、急ぎの仕事があるわけでもないため、犯人の移行に従うことにした。
「全員その場に座れ、妙な事を考えるなよ」
女性職員たち悲鳴が響く密室で怒鳴った。叡山も取り敢えず、その場にしゃがみ込み、壁に背をつけて座った。
「何が目的なんだ? 君はまだ二十歳にもなっていないだろう」
丁度居合わせた男が犯人を問いただす。こういうときに無駄な正義感を発揮する男を叡山は心底、嫌った。まるで自分がヒーローとでも思っているのだろうか。しかし白い目で見ながらも叡山はその男が目立ったことに少し安堵した。犯人がその男に構っている間に自分一人だけでも逃げることが出来ればそれでいい。
叡山は自分とは関係のない人物を助けることはただの偽善だと思っていた。そもそも身内と他者を割り切らなければ仕事などできない。
「お前には関係ない。人質は黙って俺に従っていればいいんだ」
叡山は犯人の様子をじっくりを見ていたが、どうも動機が掴めなかった。金を奪うそぶりも見せない。ただじっとカウンターに腰を掛け、猟銃を担いで座っている。皆を黙らせてからは脅すわけでもなく、ただ何かを待っている様子だった。
それなのに隙が無い。常に人質全員を視野に入れていて、死角となる場所がどこにもなかった。
これでは気配を消し、ゆっくりと裏口から逃げおおせるというわけにもいかない。何か動きがあれば、そのどさくさに紛れて脱出できるだろう。
「関係ないだと、ふざけるな。お前のせいで俺たちは……」
再び正義感の強い男が叫んだ。よくやった。不謹慎ながらその男が犯人に撃ち殺され、他の人質が慌てふためく光景を想像し、脱出のためのシミュレーションを行った。
「迷惑をかけているのは分かっている。だが今は俺の言うことを聞いて、その場で静かにしていろ。時期に解放してやるからよ」
普通の犯人なら逆上してもおかしくない。人質の粗暴な言動に対しても、至って冷静に対応している。叡山は眉間にしわを寄せ、犯人に注目した。
これはただの男ではない。恐らく一般的な動機とはまた違ったものを持っている。そもそも目の奥に渦巻く闇はこの日本社会では決して身につかない。この犯人、十八歳そこそこにして一般人よりはよっぽど場数を踏んでいる。
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