第7話 Over

まだ納得してない

その愛がミセカケでも良い




彼との出会いは

新入生の持久走大会

走ることが苦手だった

前日から寝られなく緊張して気力も落ち込んでいた


「絵里奈顔が青いよ?」

「昨日から調子悪くてさ」

「先生に言っておくから医務室で休んだ方が良いと思う」

神崎の体の異変に気が付いた友人のクラスメイトが心配そうに話しかける


医務室に着くと

二つあるうちの一つは誰かが使っている形跡がある

どうしていいのか分からず

立ちすくしていた


「保険の先生いないから勝手にベットに横になれば?」

カーテン越しから男性の声


「ごめんなさい、体調悪くて寒気があるから隣のベット使わせて」

神崎は転がるようにベットに横になる


「分かる範囲になるが欲しい薬あるなら出そうか?」

カーテンが開く音

神崎の前に上半身裸の男性が立っていた

「ちょ、服着てないの?」

神崎は布団を被る

「下は履いてるだろ?なんだ思ったより元気そうだな、サボりか?」

意地悪っぽく笑う

「あなたとは違う」

神崎は口を尖らせた

「そっか、大会が終わるまで温めてやろうか?一緒のベットで」

「もう!変態」

二人は同時に笑い出す


大会が終わるまで

二人でカーテン越しに

取り止めのない話に花を咲かせる


言葉の中に

「具合悪くなったら俺に言えよ」

という気遣い

熱っぽい眼差しと引き締まった男らしい胸板

神崎の心に刺さる



変態…ていいながら

一目で彼に惹かれ求め始めた

何度か彼と校舎で目が合うと優しく笑いかける顔が想いを加速させた

自然に告白するタイミングも遅く無かった

「あなたが好き、付き合ってほしい…」

神崎は今にも泣きそうな顔で告白をする


彼は少し黙った後、

「他に好きな人がいる

その子と付き合うまでであれば別にいい

君も誰か好きな人ができたらかまわず別れてくれていい」



俺じゃなくてもいい

私じゃなくてもいい

彼に一歩でも近づきたくて

偽りの関係を作ってしまった


本当の気持ちを知りたいだけなのに…

目を閉じ深く祈る




角谷と付き合うようになってからは

おしゃれも心掛けた

スタイルがよかったせいか

雑誌のモデルもこなすことも暫しあったが、あくまで角谷とのデートに支障が出ない程度に抑えた


角谷は恋人のようにはふるまってくれたが

キスと最後の一線だけは

越えようとしなかった



彼の愛を手に入れないまま

恋人という立ち位置を手に入れた


けれど、泡よりはかない彼との未来


嘘ばかりついている関係

続くわけがない




静かな教会に似た建物の前

角谷に呼ばれた

その時でさえ

デートの誘いだと

信じていた


朝から雨が降りしきる


「別れて欲しい」

彼が別れを告げる

雨の音で心の叫びもかき消される

消えていく彼の後ろ姿を見ても

尚直向きに誰かへの愛を貫く彼が大切だったと言える日が来るのだろうか



ステンドグラスの窓に映る

マリア様の顔が鈍く輝く

逃れられない断罪を

静かに神様は見ている

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